トラフを理解する(1) トラフは何の役に立つ?

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気象予報士試験で、トラフ解析は毎回のように出題されます。実技の参考書を開くと、トラフは何の紹介もなく突然登場し、それを追跡することが当然のように書かれています。

しかし、そもそもトラフって何で大切なのでしょうか?

そんな疑問に答えられるよう、4回の連載(予定)でトラフをじっくりと解析していきたいと思います。

【連載の予定】

(1)トラフは何の役に立つ?(今回)

(2)収束と発散

(3)渦度

(4)渦度移流と上昇流

連載を最後まで読めば、低気圧の発達と上昇流の関係が分かるようになるはずです(図1)。

 

図1 トラフの周辺で起きていること

 

トラフの定義

参考書にはトラフについて、「等高度線が低気圧性曲率を持ち、その曲率の極大部を系統的に結んだところ」と書かれています。

これはその通りなんですが、トラフを解析する目的には触れられていません。

トラフ解析の目的を明確にすると、

「低気圧の盛衰を予測するための目安となる等高度線の形状」

と表現することができます。

実際はトラフの前面や後面で起きている現象が低気圧の発達に関わってくるのですが、それがどこに存在するかを分かりやすく示してくれるのが大きく窪んだトラフというわけです。

 

なぜ、トラフが低気圧盛衰の目安になるのか

低気圧は周囲に比べて相対的に気圧の低い領域で、反時計回りに風が吹き込んでいます(北半球の場合)。この低気圧というシステムが継続するためには、地上での収束と上層での発散が不可欠です(これについては連載(3)で説明するので、とりあえず読み流してください)。

収束や発散の動向を定量的に把握できれば便利なのですが、それは難しいようです。しかし、トラフの発達ならば渦度という数値で表現することが可能です。この渦度を使うことで、収束と発散の度合いを間接的に表現することが可能になるのです。

トラフ自体は300hPaや700hPa、場合によっては850hPaでも確認することができます。でも、「渦度」という値は500hPaで把握するのに適しています。

 

トラフは寒気を伴う

上空では大気が西から東に流れています。その流れは大小のうねりを伴っています。短い方のうねり(短波と呼ばれています)は日々の天気に影響を与えるもので、谷の部分は気圧の谷(トラフ)、尾根の部分は気圧の尾根(リッジ)ということはご存知のとおりです。

短波は、極側の寒気と赤道側の暖気の不均衡を解消する(大気大循環)ために発生します。日本が位置する北緯30〜40度付近は、そのような現象が起きやすい中緯度に相当します。このため、トラフの接近時や通過後は寒気が入り込むことが多くなります。

図2は週間予報で使われるもので、2020年2月14日の東経135度線に沿った500hPa高度の緯度・時間断面図(FXXN519)です。ちなみに、東経135度子午線は日本標準時の基準であり、京都府や兵庫県を通っています。

図2 500hPa高度の緯度・時間断面図(東経135度)

 

トラフやリッジは数日間かかって日本付近を通過していきます。赤色の領域(2月16日〜18日)で高度が下がりトラフが接近・通過しています。

次に、この期間の気温の変化を見てみましょう。図3は日本の北から南までの代表4地点について、850hPaの気温の平年値からの偏差を表したものです。0度線より上にいくほど平年値よりも高い気温予想、下は低い気温予想となります。

那覇と福岡を見ると、850hPaの気温は15日までは平年より6〜12℃高くなっていますが、16日に急激に下がっているのが分かります。500hPaと850hPaの高度の違いはありますが、500hPaのトラフの接近・通過に伴う気温低下と考えられます。

図3 気温偏差時系列(850hPa)

 

もう1点気がつくのは、館野の気温低下が西日本よりも1日遅れてやってくることと、札幌では気温低下の程度が小さいことです。トラフが西日本から接近して列島に沿って通過するときは、この例のように西日本から東日本に順に寒気が入っていきます。また、札幌では高度の下がり方が例年と比べて同程度であったことが想定されます。

 

トラフの見つけ方

トラフ解析についてはこれまでも記事にしてきました。試験に出題されるトラフはそれなりに解析がしやすいもので、かつ出題者が事前に「解析すべきトラフ」を特定してくれています。それでも模範解答とピタッと一致するトラフを描くのは難しいものです。

<過去の記事>

トラフの疑問を解消します。
トラフの描き方の疑問

実際に日々の天気図を見ると、着目すべきトラフを自分で見つけなくてはならないので、難度はさらに上がります。

トラフを見つけるための着眼点としては、次の3つがよく挙げられます。

1. 等高度線の形状
2.風向の変化
3. 正渦度極大域

これはトラフの定義そのものと言えるものです。しかし、実はとても大切な前提が抜け落ちています。

すなわち、「どこにトラフがありそうか?」というあたりを最初につけることが最も大切なんです。

トラフを探すのは、それを悪天候の目安とするためです。そのためには、じょう乱と対応するトラフを見つける必要があります。

ある講習会に出たとき、500hPa天気図の至るところに2重線を引っ張っている人を見たことがあります。これが無意味な行為であることはお分かりだと思います。

ということで1.〜3.に加えて、次の2点を追加します。

4. 寒気場である
5. 前面に地上低気圧がある

4.は、前項で書いたようにトラフは、寒気を伴います。500hPa天気図に寒気の中心を表す「C」が打たれていたり、トラフ後面にサーマル・リッジがあると、それはトラフの存在を示唆します。

そして最も大切なのは5.です。地上のじょう乱の存在こそが、その後面にトラフが存在することを強く訴えます。まずは地上天気図で低気圧を探して、それに対応するトラフを探すというのが確実です(ただし、すべての低気圧にトラフが対応しているわけではありません)。

気象庁OBに話を伺うと、プロの予報官でもトラフ解析はピタッと一致するものではないそうです。トラフに限らず、ジェットや前線の解析も主観が入るため、人によって差があるのは当然です。

試験対策では過度に神経質になる必要はありません。受験者が解析した意図を想像しながら採点してくれているという話も聞いたことがあります。

「なぜそこにトラフを解析したのか」という理屈を自分でしっかりと持つことが大切です!

 

まとめ

  • トラフとは、低気圧の盛衰を予測するための目安となる等高度線の形状のこと
  • トラフは寒気を伴うことが多い
  • トラフを解析するには、地上低気圧と寒気場から「あたりをつける」と良い

 

次回は「(2)収束と発散」についてです。 →こちら

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