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トラフ接近で何が起こるか

「上層の気圧の谷」と呼ばれることのあるトラフですが、地上の気圧の谷とはその働きが異なるようです。

今回はトラフの接近に伴い何が発生するのか、短期予報解説資料から4つのケースを拾ってまとめてみました。ご一緒に考えてみましょう。

 

前線が発生する

トラフの接近に伴い前線が発生するケースです。華中から前線がピョコッと顔を出すのは冬の終わりから春にかけて多く見られるパターンです。

図1は2024年3月11日の事例です。

短期予報解説資料には、「11日朝には500hPa 5700〜5760mの正渦度移流に対応して、華中付近〜東シナ海に前線が発生」(3月10日15時40分発表)とあります。

図1 500hPa天気図(左)と地上天気図(右)

 

類似ケースでは、「正渦度移流」の個所が「トラフ」や「強風軸」に置き換わることがあります。

この事例でも12時間前の解説資料では、「500hPa 5700m付近のトラフが東シナ海に進み、対応する前線が東シナ海から奄美地方付近に発生」としていました。

また、この付近は亜熱帯ジェット気流の位置に相当するため、「500hPaの強風軸に対応して」とされることもあります。

 

低気圧が発生する

トラフに対応する低気圧が発生するケースです。予報士試験の学習をされている方には、最も馴染みのあるケースでしょう。

図2は2024年4月3日の例です。

短期予報解説資料には、「500hPa5700m付近のトラフは3日朝には東シナ海へ進み、対応して前線上のチェジュ島付近に低気圧が発生」(4月3日03時40分発表を一部改変)とあります。

図2 3日9時の500hPa天気図(左)と地上天気図(右)

 

この前線は前日の2日、500hPa 5700〜5760mのトラフの東進に伴い顕在化したものです。

 

シアーラインが形成される

トラフの接近に伴いシアーラインが形成されるケースです。

図3は2024年2月11日の事例です。

短期予報解説資料には、「トラフの接近により日本海や関東の南東海上にシアーラインが形成される」(2月11日03時40分発表)とあります。

予想図には、日本海と関東の沖合にシアーラインに対応する降水が予想されています(図3右の青色部分)。

図3 500hPa高度・渦度24時間予想図(左)と地上気圧、海上風、降水量24時間予想図(右)

 

シアーラインの形成は700hPaの上昇流でもきれいに予想されています(図4のオレンジ色部分)。

図4 850hPa気温・風 700hPa上昇流24時間予想図

 

実際、この日はおおむね予想通りの降水が見られました(図5)。

図5 雨雲レーダー(11日21時)

 

大気の状態が不安定になる

トラフの接近に伴い大気の状態が不安定となるケースです。落雷や竜巻などの激しい突風、短時間の強雨などが予想されます。

図6は2024年3月13日の事例です。

短期予報解説資料には、「西〜東日本付近の500hPa 5340〜5520mに−30℃以下の寒気を伴ったトラフがあって南東進。このトラフは13日は日本の東に進み、東日本では大気の状態が非常に不安定となる。」(3月13日03時40分発表を一部改変)とあります。

図6 500hPa天気図と雨雲レーダー

 

この日の実況を見るとSSI(ショワルターの安定指数)は館野(茨城県)で5.05(9時)で、東西日本で落雷は発生しませんでした。

その理由は次のように考えられます(図7)。

図7 地上天気図と850hPa天気図(13日)

 

13日朝、東日本は気圧の谷に覆われていますが、次第に東シナ海の高気圧が優勢になり夜には東日本まで張り出しています(図7上段)。

これに伴い850hPa面では大気が乾燥していきます(図7下段)。

湿数で見ると館野が4.9→12.0、八丈島が4.1→28.0といった具合です。これによって時間の経過とともに安定度が増していったものと推測できます。21時の館野のSSIは9.59になりました。

 

何も起こらない

トラフが接近・通過しても顕著な現象は発生しない、そんなケースが実は一番多いのかもしれません。

トラフの接近が予想される場合は500hPaの気温予想、850hPaの低気圧性循環、地上の降水予想や気圧予想と見比べて、本記事の5パターンのいずれに相当するのか考えてみましょう。

 

最後に

実技試験の学習を始めると主役級で登場するのがトラフですが、今回の記事をまとめて自分でもやっとトラフの価値が分かったような気がします。

トラフが接近するとなぜこのような現象が発生するのかについては、改めてまとめてみたいと思います。実はトラフよりも正渦度移流がポイントだということが分かると思います。

 

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「トラフ接近で何が起こるか」への2件のフィードバック

  1. kishounomoto様
    大阪の講習の際はお世話になりました。その際にも確かこの内容のお話をして頂いたと思いますが今回こちらで整理して頂いたものをみてより理解が深まりました。正渦度移流がポイントということですね!

    1. はい。上昇流を励起するのは正渦度移流であり、さらに寒気を伴うトラフは成層状態を不安定にします。
      渦度の変化について数式を用いずにわかりやすく書かれた本があると良いですね。

      ちなみに、渦度の考え方は19世紀にドイツ人の生理学者で物理学者でもあるヘルムホルツが導入したとされていますが、その歴史的な背景を探るのも楽しかったりします。

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