温度風は温度移流に関する考え方ですが、参考書を読むだけでは分かりにくいと思います。
「温度風とは2層間の地衡風の鉛直シアのことである」という説明が頭にスッと入らない方は、続きをお読みください。
はじめに
天気図の解析では、850hPaや500hPaなどの同一の気圧面における温度場や風の場に注目することが通常です。
これに対して温度風は、異なる気圧面(高度)の間に適用される考え方で、2つの高度間の鉛直方向にどのような温度移流があるかを判断するために用いる、仮想的な風です。
温度風の考え方を用いると、一地点の上空の風のデータから温度移流を判断することができます。例えば、輪島の高層データを用いて850hPaと500hPaの間は暖気移流か寒気移流かを判断することができます。
逆に層厚温度の分布が分かると、ある高度の風が分かれば別の高度の風を求めることができます。
温度移流とは
温度移流
最初に、温度風の理解に必要となる温度移流を確認しておきましょう。
ある地点に空気が流れてくることで、気温が変化することを考えてみます。暖かい空気が流れてくると気温は上昇し、逆に冷たい空気が流れてくると気温は下降します。
空気が流れることは風そのものですから、これを言い換えると次のようになります。
- 等温線を横切って気温の高い方から低い方に風が吹く(暖気移流)と、気温は上昇する(図1(a))
- 等温線を横切って気温の低い方から高い方に風が吹く(寒気移流)と、気温は下降する(図1(b))
暖気移流と寒気移流を合わせて温度移流と言います。
温度移流は次のときに大きくなります。
- 等温線が密である(温度傾度が大きい)
- 等温線を横切る風が強い
- 等温線を横切る風の角度が90度に近い
風のシア
風向や風速が変化することを「風のシアがある」と言います。風のシアが発生する方向に応じて、水平シアと鉛直シアがあります。
風の水平シアは同一気圧面上の風向や風速の変化で、組織的な収束や発散が発生することがあります。
850hPaの相当温位・風の予想図(FXJP)は風の解析が細かく予想されているので、シアを見つけるのに使われます。図2では顕著なものを赤枠で囲んでみました。
一方、風の鉛直シアは鉛直方向の異なる気圧面上の風向や風速の変化です。
上空では地表の摩擦力の影響を受けないので、等高線に平行な地衡風が吹いていると考えることができます。しかし、同一地点でも気圧面が異なると地衡風は一致しないのが普通です。
図3は12月の日本周辺の850hPaと500hPaの天気図です。青枠は輪島の風の観測データです。
850hPaでは北の風が風速20ノットで吹いていますが、500hPaでは西南西の風が90ノットで吹いています。
850hPaと500hPaで風向・風速が異なるので、風の鉛直シアがあることになります。
温度風とは何か?
それでは準備もできたので、温度風の説明に入っていきます。
温度風は2層間の地衡風の差分をベクトル表示したもの
図4(a)のように、上層と下層で地衡風が吹いているとします。この風のデータを用いて温度風を求めてみます。
上層の風と下層の風の向きを変えずに、風ベクトルの始点を合わせて書きます(図4(b))。このとき、下層風ベクトルの終点から上層風ベクトルの終点に向かってベクトルを書くと、それが温度風になります。
異なる気圧面の地衡風が温度風で結ばれる関係になっています。これが「温度風は地衡風の鉛直シアのことである」という意味です。
図4(b)をホドグラフと呼んでいます。
ちなみに、温度風は上層の風と下層の風の差分なので、図4(c)のように下層風のベクトルを逆向きにすると考えやすくなります。
実例で温度風を求めてみよう
温度風はベクトルなので、風向だけでなく風の強さも考慮しなくてはなりません。例題を通して確認しましょう。
図5は2022年12月6日の850hPaと500hPaの天気図の一部です。
地点Aにおける850hPaと500hPaの2層間の温度風を求めます(図6(a))。
地点Aでは850hPaでは55ノットの北西風、500hPaでは20ノットの西風が吹いています。
この2つの風を向きを変えずに紙に書き取ります。トレーシングペーパーを使うと良いでしょう。
この時点では風の強さを考慮できていないので、書き取った風を強さに見合った長さに伸ばします。例えば10ノットを1cmで表すとすると、850hPaの20ktの風は2cmに、500hPaの55ktの風は5.5cmに伸ばします。
850hPaの風の終点から500hPaの風の終点に引いたベクトル(赤矢印)が温度風になります。
地点Bの温度風も同じようにして求めることができます。
これで温度風の求め方が分かりました。
温度風の性質
温度風には3つの重要な性質があり、過去の試験でも繰り返し問われています。
②温度風は、等温線の高温側を右手に見て吹く(北半球の場合)
③温度風が強いほど、層厚温度の水平傾度が大きい
最初に用語を説明しておきます。
層厚とは2つの等圧面の間の高度差のことです。また、層厚温度とは、この2つの層の平均気温のことです。
では、順に見ていきましょう。
①温度風は、2層間の層厚温度の等温線に平行に吹く
上空の2つの気圧面として上層と下層を考えると、上層と下層の地衡風の間にはある均衡が存在します。
すなわち、上層と下層の地衡風ベクトルの差(風の鉛直シア)である温度風が、2層間の平均気温の等温線に平行になります。
上層と下層の平均気温をとって等温線を書くと、温度風ベクトルは等温線と平行の向きになります(図7)。これを「温度風は等温線に平行に吹く」と呼んでいます。
温度風は概念ですので実際には吹いていませんが、上層と下層の地衡風にはこのような関係が成り立つことを表しています。
もし暖気移流や寒気移流が強まり均衡が崩れた場合は、暖気の上昇や寒気の下降により温度風が等温線と平行になるまで調節されます。
②温度風は、等温線の高温側を右手に見て吹く(北半球の場合)
暖かい気柱と冷たい気柱の2本の気柱を考えると、暖かい気柱の方が膨張している分、上空に多くの空気が存在します(図8)。例えばこの図で示すように、同じ高度でも暖かい気柱の気圧は600hPaで冷たい気柱は500hPaという具合に気圧差が生じ、気圧傾度力は高緯度側に働きます。
さらに、北半球では風はコリオリ力で右に曲げられるので、結局、温度風は等温線に平行で、かつ高温側を右手に見て吹くことになります。これは地衡風が高度の高い方を右側に見て吹くのと対応しています。
図に示した温度風は、画面の手前から奥に向かって吹いています。
③温度風が強いほど、層厚温度の水平傾度が大きい
温度風が強い(=温度風ベクトルが長い)ほど温度の傾度が大きい、すなわち2層間の層厚温度の等温線が混み合っています。
イメージ図を使って説明します(図9)。
図9の(a)と(b)の温度風はいずれも同じ向きに吹いています。両者を比べると(b)の方が温度風ベクトルの長さが長い分、温度風が強くなっています。
温度風は温度傾度に比例するので、温度風が強い方が等温線が混み合うことになります。
暖気移流か、寒気移流か
温度風を用いた暖気移流と寒気移流の判別を考えます。
図10は図5の地点Aと地点Bについて求めた温度風です。
ここで2層の間を吹く平均の風として平均風というものを定義します。平均風は下層風と上層風の始点から温度風の中間点に向かうベクトルです。
温度風は高温側を右手に見て吹くので、図10(a)のように平均風が高温側から吹く場合は暖気移流になります。逆に、図10(b)のように平均風が低温側から吹く場合は寒気移流になります。
実は同じことをエマグラムの鉛直プロファイルでもやっていますが、その根拠は温度風にあります。
図10(a)の暖気移流では850hPaから500hPaに向かって風向が時計回りに変化(順転)しています。図10(b)の寒気移流も同様に確認してみてください。
温度移流の強さ
これで温度風について必要な知識は全て説明しました。最後に応用として、よく出題される「2地点の温度移流はどちらが強いか」を考えてみましょう。
図11に3通りの温度風(赤矢印)が示してあります。これを温度移流の大きい順に並べるのは実は簡単です。
温度移流の大きさは下層風、上層風、温度風で囲まれた三角形の面積で示されます。この面積が大きいほど温度移流が大きいので、黄色の三角形の面積を比べれば大小関係が分かります。
温度移流が大きい順に並べると、b>a>cとなります。
【コラム】温度移流の大きさが三角形の面積で示される理由
温度移流は温度傾度が大きいほど、また風の角度が等温線に直角に近いほど強いことは先にも述べました。これを温度風にあてはめると、温度傾度が大きいことは温度風が大きいことに相当します。これは三角形の底辺の長さです。
また、風の角度が等温線に直角に近いことは、平均風が温度風と直交する成分に相当します。これは三角形の高さです。
この2つの積が大きいほど温度移流が強いので、三角形の面積を比べれば良いことになります。
さいごに
長い記事になりましたが、本記事を理解することができれば温度風に関する出題はすべて解くことができます。
今後はぜひ、56-1-4(4)、55-2-4(1)、54-2-1(4)、52-1-1(3)、51-1-4(1)、50-2-1(3)の過去問題にチャレンジして、理解を確実なものにしてください!
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