コンテンツへスキップ

気象ロジック(解説付き)(上)

前回、「気象ロジック」という記事を書きました。今回はできるだけ実例を用いながら、気象ロジックの一つ一つを解説してみたいと思います。

 

低気圧の発達に関するもの

【低気圧の発達と衰弱】

  • 地上低気圧の中心と上層トラフを結ぶ軸が・・・
    • 上層ほど西に傾く・・・低気圧は発達する
    • 軸が垂直・・・最盛期〜衰弱期
    • 上層ほど東に傾く・・・衰弱する

(解説)

低気圧中心と上層トラフを結ぶ軸が西に傾いているということは、トラフ前面の上層に発散があり大気の循環が効率よく行われていることを意味します。

図1 地上低気圧とトラフの位置の関係

図1は500hPaトラフと地上低気圧の中心の位置関係を模式的に表したものです。時間経過とともにトラフと地上低気圧は北上しながら、地上低気圧はトラフを追い越して衰退していきます。

実際にはこのような関係が見出されないケースも多々ありますが、試験対策上は図1の関係をしっかりと頭に叩き込んでおきましょう。

トラフが浅まる(トラフが「深まる」の反意語で「浅まる」という変な日本語が通用しています)と、別のトラフと結びつきが良くなってさらに発達する低気圧もあります。

出題事例: 47-2-2(1)②, ③

 

【発達する低気圧の予想】

  • 低気圧の進行方向前面で、暖気移流と上昇流が強まる
  • 低気圧の進行方向後面で、寒気移流と下降流が強まる

(解説)

上空の寒気が下降し位置エネルギーが運動エネルギーに転換されることで、低気圧は発達を続けることができます。

したがって、予想図(FXFE5782, 5784, 577)を見たときに時間経過とともに温度移流と鉛直流が強化される場合、低気圧は発達すると判断します。

図2 低気圧発達時の温度移流・鉛直流の状況(850hPa気温・風、700hPa鉛直流 12時間、24時間予想図)

図2は850hPa気温・風、700hPa鉛直流の予想図です。12時間後と比べて24時間後は低気圧前面の暖気移流と後面の寒気移流が強まっており、発達が予想されます。

出題事例: 47-2-2(2)②

 

【低気圧の世代交代】

  • 前線の閉塞点に新たな低気圧が発生し、再発達することがある

(解説)

地上天気図には低気圧の移動方向と移動速度が示されています。これを3時間ごとに追跡すると、ある時間帯に低気圧が不連続に移動していることがあります。

これは閉塞した低気圧に見られる現象で、「低気圧の世代交代」と呼ばれています。閉塞した低気圧は最盛期から衰弱期に向かいますが、新たな低気圧が発生することで再度発達を続けます(図3)。

図3 低気圧の世代交代

 

大気の状態に関するもの

【大気不安定】

  • 上空に寒気が入る
  • 下層に暖湿気が入る

(解説)

暖かい空気は密度が小さく冷たい空気は密度が大きいため、上空に寒気、下層に暖気がある状態は何かをきっかけに大気の入れ替わりが発生しやすい不安定な状況です。

また、空気は上昇すると潜熱を放出するので、湿っているほど上昇しやすくなります。

大気が不安定になる寒気や暖気の具体的な温度は季節により異なります。500hPaの気温を平年値と比べて、それよりも数℃低ければ上空に寒気があると判断します。下層の暖湿気は850hPaで南西の風が相当温位線を横切って吹く場合は、概ね暖湿気が流入しています(図10(b)も参考に見てください)。

2021年6月24日の事例を見てみます。この日は全国的に大気が不安定になり、所々で雷雨が発生しました。

図4 レーダーエコーと地上天気図

図4(a)のレーダーエコーでは、西日本から北日本の広範囲にわたって内陸部に偏ったエコーが見られます。これは上空の寒気と下層暖湿気の流入に加えて、日中の日照で地上気温が上昇し、大気の成層状態が悪くなったと考えられます。

地上天気図(図4(b))を見ると、日本海の高気圧(1014hPa)と日本のはるか東の高気圧(1020hPa)の間が気圧の谷になっています。

850hPaの相当温位・風の12時間予想図(図5)を見ると、西日本から北日本にかけて、この気圧の谷に向かって下層暖湿気(324K程度)が流入しています。324Kは6月としては高い値ではありませんが、向きを揃えて北日本に流れ込んでいることに着目します。

図5  850hPa相当温位・風12時間予想図(6月23日21時)

500hPa天気図(図6)によると、日本海には−15℃の寒気を伴う寒冷渦と−12℃の寒気を伴うトラフが西日本を通過中であり、西日本には−12℃の寒気が流入しています。

図6 500hPa天気図(6月24日9時)

表1に代表的な観測点の500hPaの気温を示しました。各点とも平年と比べると4〜5℃低いことが分かります。

表1 代表的な観測点の500hPaの気温(当日と平均)

このように、上層と下層の気温差が大きくなり大気の状態が不安定になったものと思われます。

最後に、複数の観測点における9時と21時のショワルター安定指数を示します(表2)。

表2 代表的な観測点のSSI(ショワルター安定指数)

 

高気圧に関するもの

【寒冷高気圧】

  • 下層に冷たい空気がたまると、背の低い(高度3キロ程度)高気圧が形成される
  • 下層は密度が大きく気圧は高いが、上層では密度が小さく気圧が低いため高気圧は検出されない
  • 寒冷高気圧が暖かい領域に流れ出すと、下層から暖められて不安定になることがある

(解説)

冬季のシベリアでは放射冷却により寒冷高気圧が発達します。この時期の地上天気図でバイカル湖周辺を見ると、1050hPa前後の高気圧をよく見かけます。

図7 2021年12月23日12UTCの天気図

図7(a)ではバイカル湖(三日月型をしています)の北に1060hPaの高気圧があります。同時刻の850hPa天気図(図7(b))の該当する領域(青い領域)には高気圧が見当たらず、背の低い高気圧であることが分かります。

図8 エマグラム(ウスチ・バルグジン)

バイカル湖の東に位置するウスチ・バルグジンのエマグラム(図8)では接地逆転層が形成されており、下層が冷却されていることが分かります。

 

高気圧後面の大気不安定】

  • 移動性高気圧が日本の東海上に抜けると、日本は高気圧の後面になる
  • 高気圧の後面では暖湿気が流入して、大気の状態が不安定になりやすい

(解説)

早速、実例で確認してみましょう。

図9 地上天気図とレーダーエコー

図9(a)は2021年6月11日の天気図です。前日、全国に晴天をもたらした1022hPaの高気圧は日本の東に移動しています。

同時刻のレーダーエコーによると、日本海西部から東シナ海にかけて雨雲が見られます(図9(b))。これは高気圧の縁の暖湿気が流れ込んで対流雲が発達したことによるものです。

次に、この雨雲の原因となった風の流れを確認します。

図10 風と相当温位

日本の東の高気圧の後面には、高気圧の縁辺を回る南よりの風が吹き込んでいることが分かります(図10(a))。これにより、対馬海峡付近には342Kの下層暖湿気が流入しています(図10(b))。

 

最後に

分量が多くなるので、今回は気象ロジックの前半をまとめました。お役に立てば幸いです。

 

(図の出典)
図2〜7、図9、図10(b):気象庁天気図を加工
図8:http://weather.uwyo.edu/upperair/sounding.html
図10(a):https://earth.nullschool.net/

 

この記事が役に立ったと思われた方は、ポチッと押してください。

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA