天気解説などでは、「高気圧に覆われて晴れるでしょう」とか「高気圧が張り出してきます」という表現を目にします。
こうした高気圧の動きが実際に天気図上でどのように表現されているのか、調べてみました。
高気圧に関する表現
天気概況でよく用いられる表現をまとめます。また、それぞれの表現がどのような意図で使われているのか、気象台に確認した結果を示しました。
【高気圧に覆われる】
- 高気圧の閉じた等圧線で囲まれた場合に用いられます。
【緩やかに高気圧に覆われる】
- 高気圧または気圧の尾根により、降水を伴わず晴れや曇りで経過した場合に用いられることがあります。
- 「緩やかに」を付加する条件に明確な決まりはありません。
【高気圧が張り出す】
- 遠方にある高気圧の影響を受けている場合に用いられます。高気圧が勢力を広げるという意味があります。
- 「覆われる」「ゆるやかに覆われる」との明確な区別はありません。
【高気圧が移動する】
- 単純に高気圧が移動していることを表します。
表現の使い方に細かい規定はなく、意外とアナログな運用がされているようです。
このため、同一の高気圧に対して気象台によっては「高気圧が張り出す」と「緩やかに覆われる」のように表現が異なるケースが出てきます。
実例で確認する
ここからは、上記の4表現の実例を通して、そのときの気圧配置と天気を確認していきます。
各事例の「」内は地方気象台が発表している気象概況からの引用です。それに続いて私の解釈、そしてアメダスによる天気を記載しました。
高気圧に覆われる
高気圧の閉じた等圧線で囲まれた場合に用いられます。
例1)分かりやすい事例
「全国的に高気圧に覆われる」
宮城沖に中心気圧1036hPaの高気圧があり、1028hPaの閉じた等圧線が北日本から西日本を広く覆っています。
【9時の天気】
札幌:快晴、仙台:快晴、東京:快晴、福岡:晴、那覇:晴
例2)分かりにくい事例
「高気圧が北日本を覆う」
北海道の南にある中心気圧1026hPaの高気圧が北海道から東海を覆っています。
山陰から東北の日本海側は気圧の谷になっています。
【9時の天気】
札幌:薄曇、仙台:曇、東京:曇、福岡:曇、那覇:晴
天気図上では東北の太平洋側から東海にかけては高気圧に覆われているため晴れそうな気もしますが、推計気象分布(左図)を見ると雨域(青色)が中部から関東に広がっています。
太平洋側の雨は、高気圧の縁を回る湿った東風が太平洋側から吹き付けるて天気が崩れる典型例です。
本州のその他の地域も気圧の谷で、ほとんど曇天です。
緩やかに高気圧に覆われる
高気圧または気圧の尾根により、降水を伴わず晴れや曇りで経過した場合に用いられることがあります。
「緩やかに」を付加する条件に明確な決まりはありません。
例1)分かりやすい事例
「北日本は千島の東にある高気圧に緩やかに覆われる」
1022hPaの高気圧の周りの1016hPaの等圧線が北日本を覆っています。
東北から北海道はは気圧の谷で前線がのびています。
【9時の天気】
札幌:曇り、仙台:雨、東京:晴、福岡:曇、那覇:薄曇
例2)分かりにくい事例
「東北地方は高気圧にゆるやかに覆われる」
沿海州と日本海北部に低気圧があり、三陸沖には前線上の低気圧があります。
慣れないと、北日本は気圧の谷ではないかと思ってしまいます。
日本海北部の996hPaの低気圧と三陸沖の994hPaの低気圧に挟まれて、北日本は気圧の尾根になっていると見るべきなのでしょう。
【9時の気圧】(海面気圧)
札幌:997.6、青森:999.7、仙台:999.9
【9時の天気】
札幌:晴れ、仙台:晴、東京:曇、福岡:曇、那覇:晴
高気圧が張り出す
遠方にある高気圧の影響を受けている場合に用いられます。高気圧が勢力を広げるという意味があります。
「覆われる」「ゆるやかに覆われる」との明確な区別はありません。
例)
「オホーツク海の高気圧が北日本に張り出す」
オホーツク海にある中心気圧1020hPaの高気圧がゆっくりと南に移動しています。
これを「北日本はオホーツク海にある高気圧に緩やかに覆われる」とした気象台もありました。
【9時の天気】
札幌:晴、仙台:霧雨、東京:雨、福岡:曇、那覇:晴
高気圧が移動する
単純に高気圧が移動していることを表します。
ちなみに、気象庁では高気圧は「移動する」、低気圧は「進む」の表現を用いています。
例)
「高気圧が日本海から三陸沖に移動する」
日本海西部にある中心気圧1014hPaの高気圧が東南東に移動しており、12時間後の21時には三陸沖に達しました。
【9時の天気】
札幌:雨、仙台:薄曇、東京:晴、福岡:晴、那覇:曇
最後に
高気圧に関する表現をまとめてみました。いかがだったでしょうか。
天気解説では当たり前のように使われていますが、予報官によって主観的に使われていたり、気象概況では「気圧の尾根」という表現が使われていないことが個人的には発見でした。
次回は、低気圧に関する表現についてまとめてみたいと思います。
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例2は等圧線だけを見ていると東北はどう見ても気圧の谷のど真ん中という感じですが、低気圧といて気圧の間の高圧部ととらえれば天気は悪くないと理解できます。でも、ゆるやかに高気圧に覆われるいう表現は局所的な天候表現としてはなじめない感じがします。
令和2年6月15日9時の事例ですね。
ご指摘のように、「東北地方は高気圧にゆるやかに覆われる」のが読み取りにくいです。
この時刻(15日9時)の前後の時刻の天気図を見ると、3時には北陸にあった1000hPaの等圧線は9時には東北に張り出し、12時以降はさらに北に張り出しています。
9時の天気図を静止画としてとらえると分からないのですが、このように動的にとらえると等圧線の張り出しを理解できると思います。