エマグラムというと斜線がいっぱいで見にくく、苦手意識のある方も多いと思います。
これまでエマグラムを勉強してきたけどよく分からない。そのような方でも分かるように、全5回の予定でエマグラムの解説をしていきます。
(1)空気塊と大気
(2)エマグラムの概要
(3)エマグラム用紙
(4)状態曲線
(5)逆転層
今回の目標は、大気の不安定度を知るための仮想的な「空気塊」という考え方と、実際の大気である「周囲の大気」の違いを理解することです。
空気の上昇
空気が上昇すると雲ができやすくなります。上昇する仕組みはさまざまですが、その代表例の一つが低気圧です。
しかし、地上天気図では低気圧が見当たらないのに、落雷や強い雨が降る。そんなときは、大気の状態が不安定になっているのかもしれません。
大気の状態が不安定なとき、暖かい空気が浮力により上昇していきます。
浮力による熱気球の上昇
暖かい空気が上昇していく様子は、熱気球が浮上する仕組みに似ています(図1)。
バルーンの下でバーナーで温めると、バルーン内の空気が膨張します。これによってバルーン内の密度(=質量÷体積)が周囲の大気より小さくなるため、上昇していきます(アルキメデスの原理)。
下降するときはバーナーを止めたり、バルーンから暖かい空気を逃してやることで浮力を失い、自重で降下します。
大気の成層状態
熱気球が上昇する仕組みはざっくりと分かりました。次に暖かい空気の上昇を考えてみましょう。
図2に2種類の空気を示しました。青色は温度が低く密度が大きいことを、赤色は温度が高く密度が小さいことを表します。
左側の空気は温度が低く相対的に重い空気の上に、相対的に軽い空気が乗っています。
温めている途中の浴槽ややかんのお湯が、下が冷たく上が熱い状態なのと同じです。
これから分かるように、空気の密度が大→小と変化している状態は安定しています。これを「安定した成層状態」と言います。
これに対して右側の空気は、上にいくほど密度が大きくなっています。これは重心が高いところにあるので、不安定です。この状態が、「不安定な成層状態」です。
一般に、大気の状態が悪いというのは、上空に寒気が入っている、あるいは下層に暖湿気が入っている、あるいはその両方の状態を言います。
例えば、大陸に寒冷渦があると日本の上空には寒気が入ります。このとき日本海に前線を伴う低気圧があると、南西風の暖湿気が入ります(図3)。このような状況では大気の状態が悪くなりやすいと言えます。
<補足>
「大気の成層状態」というときの「成層」は、成層圏とは関係ありません。「空気の密度が成す層」と思っておけば良いでしょう。
空気塊と周囲の大気
大気の状態は、「空気塊」と「周囲の大気」に分けて考えることが大切です。
両者の温度(密度と考えても同じ)を比べることで、大気の安定性を判断することが可能になります。
空気塊
上昇する空気に働く浮力を考察する際、「空気塊」という単位で仮想の空気を考えます(この考え方を「パーセル法」と言います)。
▼空気塊の特徴
- 空気塊は大気の中に存在しますが、大気とは独立して動くことができます
- 空気塊が上昇したり下降するときは断熱的で、大気との熱のやりとりは発生しません
- 空気塊が上昇するときに温度がどれだけ下がるか(気温減率)、熱力学の理論から求めることができます
周囲の空気
ここまでは大気という言葉を使ってきましたが、空気塊と比較しやすくするために「(空気塊の)周囲の大気」と書き改めます。
周囲の大気は現実に存在し、その気温は寒気や暖気の移流などで随時変化します。
そのため、空気塊とは異なり、高度上昇に伴う気温減率を理論的に求めることはできません。ある時点の周囲の大気の気温は、実測することでしか知ることができません(図4)。
飽和した空気は 凝結すると潜熱を放出する
空気塊の上昇に伴う気温減率は理論から算出できますが、未飽和の空気塊と飽和した空気塊では異なった値をとります。
(注)未飽和空気と飽和空気についてはこちらにまとめました。
未飽和の空気の上昇
未飽和の空気が上昇していくことを考えてみます。未飽和なので、水蒸気圧は飽和水蒸気圧未満です。湿度は100%に達していないので、この空気は乾燥しています。
空気は上昇していくと気圧が減少し断熱膨張するので、気温が下がっていきます。上昇する高度に対して、乾燥空気の気温が減少する割合を乾燥断熱減率と言います。「減率」とは聞き慣れない名称ですが、気温が下がる割合という意味です。
乾燥した空気の減率は一定で、100mの上昇につき、およそ1℃です。
飽和した空気の上昇
空気塊は上昇を開始してしばらくは乾燥していますが、気温が減少して露点温度を下回ると凝結を始めます。この時点で乾燥していた空気は湿潤空気になります。
凝結というのは水蒸気の一部が結露して水滴になることです(図5)。空気は上昇を続けると凝結が続き、空気中の水蒸気の量は減っていきます。
水蒸気が水滴に変化するという現象は、気体が液体に相変化することです。この過程で、水蒸気が蓄えていた潜熱が放出されます。
このように空気塊が凝結するときは自ら発する熱で暖められるので、湿潤空気は乾燥空気よりも気温の下がり方が小さくなります。これを湿潤断熱減率と言います。
イメージとしてはこんな感じです。
湿潤断熱減少率 = 乾燥断熱減率 + 潜熱
乾燥断熱減率はマイナスの値で潜熱はプラスの値なので、その合計である湿潤断熱減率は小さくなると理解しましょう。
乾燥断熱減率は100mの上昇につき約1℃という一定の値で直線で表されますが、湿潤断熱減率は曲線です。というのは、凝結を始めた当初は潜熱の放出も大きいのですが、上昇に伴い気温の減少が続くと空気中に残された水蒸気量が減っていき、潜熱の放出量も当初ほどではなくなるからです。したがって、湿潤断熱減率は高度が高くなるにつれ、乾燥断熱減率に近づいていきます。
(参考)未飽和空気と飽和空気
乾燥空気と湿潤空気、未飽和空気と飽和空気の関係を表1にまとめます。
まとめ
今回のポイントをまとめます。
【空気塊と周囲の大気】
- 大気の安定度を判断するために、空気塊と周囲の大気に分けて考える
- 空気塊は仮想の存在で、気温減率は理論的に求めることができる
- 周囲の大気は実際に存在する空気で、気温減率は観測により求めることができる
【空気塊】
- 乾燥空気の気温減率は乾燥断熱減率で、一定の値である
- 露点温度以下に冷えた空気は凝結して湿潤空気になる
- 湿潤空気の気温減率は湿潤断熱減率で、潜熱の放出があるため、湿潤断熱減率<乾燥断熱減率となる
最後に
今回は大気の安定度を見るために、仮想的な「空気塊」と実際の「周囲の大気」について分けて考えることを学びました。
エマグラムを理解するためには、この両者をしっかりと区別することが大切です。
次回は、大気の状態を視覚的に理解することができるエマグラムについて解説します。
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