防災事項に関する出題がほぼ毎回出題されており、出題内容には一定のパターンがみられます。
今回は過去の出題を通して、防災事項の傾向と対策を考えてみました。
※本記事は第40回〜第54回の出題を対象に作成しました。
※大雨警報・注意報の発表基準は平成29年度(2017年度)7月から、表面雨量指数と土壌雨量指数になりました。
このため、本記事では雨量基準を用いた出題は対象から外してあります(42-1-3(4)①、44-2-4(5)、47-1-4(2))。
警報・注意報の発表基準などは随時見直しがされるため、過去問に取り組む際は最新の情報を入手してください。
※過去問題番号は「回-実技-問」で表記しました。
例)「42-1-3(4)」なら「第41回 実技1 問3(4)」です。
防災事項の出題傾向
防災事項とは
防災事項の明確な定義はありませんが、本稿では主に「気象情報」および「気象警報・注意報」に関する問題を扱うことにします。
概要
実技試験は設問数が3〜5問で構成され、前半は総観規模の事象、後半はメソ規模の事象が問われる傾向にあります。このため、防災事項の出題は後半の問題(問3〜問5)で問われます。
設問の形式は1問まるごとが防災関連の場合(41-1-5、43-1-5)と、枝問で出題される場合があります。枝問の場合、その前の問題の解答をもとに考えさせる出題が多くなっています。
配点は概ね4〜8点となっています。
与えられた資料から気象状況を読み取り、それに対する防災事項を問うのが基本的なパターンです。
気象状況は大雨あるいは雪に関するものが多くなっています。防災事項の出題は気象情報に関するものと、警報・注意報に関するものに大別できます。
近年では、このような傾向とは異なる、「内水氾濫」の説明を求める出題がありました(52-1-3(3))。
気象情報に関する出題
気象情報とは
気象情報は警報や注意報に先立って注意を呼びかけたり、警報や注意報の内容を補足するために発表されます。1~3日前に大雨などの見込みについて注意をよびかける内容になっています。
気象庁のホームページで閲覧可能ですので、随時見るようにしてください。
(注)下記の気象情報の「中略」は筆者がつけたものです。
気象情報関連の出題は、防災上注意すべき事項を問うものと、気象情報を完成させるものの2パターンあります。
「防災上注意すべき事項」の問題
過去の出題: 40-2-4(6)、40-2-5(2)、41-2-4(3)、42-2-4(3)、45-2-5(4)、51-1-4(1)④
特定の気象状況の下での防災上注意すべき事項を問う問題です。
出題例を見てみます(42-2-4(3))。
この問題では図12(レーダーエコー合成図、本稿では省略)で積乱雲の発生状況を読み取らせて、雷に伴う注意事項を問う内容になっています。
このように設問は、①資料から気象条件を読み取り、②防災上の注意すべき事項を問う、という構成になっています。
【ポイント】
①気象状況を読み取る
「防災上の注意事項」を解答する前段階として、実況資料や予想資料から気象状況を読み取ります。
過去には、次のような気象状況の判断が求められています(表)。
「大気の成層状態」、「積乱雲の接近」が大きな割合を占めていることが分かります。
②防災上の注意すべき事項
前項①で読み取った気象状況の下で予想される現象や災害を問うものです。
過去の出題から、問われた内容をまとめてみました。
季節に応じて想定される現象が変化するので、上記表の「事例の時期」に注意してください。
例えば雪に関連する現象では、時期が1〜2月であれば冬型の気圧配置による暴風雪の可能性がありますが、4月になると地上気温が上昇するため融雪の可能性が高まります。
上記表を見ると、解答には警報・注意報の名称や現象が混在していて、理屈で整理することを困難にしています。あまり神経質にならずに、気象状況と防災事項の関係を大雑把に整理しておくのが良さそうです。
なお、ここで出てくる「現象」「大気現象」は、「専門知識」に出てきた大気現象とは異なるものです。
※気象庁では、大気現象により天気を選んでいます。また、過去の気象データでは「大気現象記号』が用いられます。
気象情報を完成させる問題
過去の出題:41-1-5(3)、43-1-5(1)、48-1-5(2)、51-1-4(2)
虫食いの気象情報に、天気図などから読み取った値や、防災事項、警戒・注意が必要な事項を穴埋めさせる問題です。
こちらもまず出題例を見てみましょう(41-1-5(3)、一部改変)。
この問題では、ガイダンス資料(後述)から気象状況を予報用語(降水、風、波浪、時)で解答し、さらに防災上の注意事項が問われています。
【ポイント】
①予報用語
予報用語とは、天気予報や注意報・警報で用いられる用語です。過去には降水(「非常に激しい雨」など)、風(「猛烈な風」など)、波浪(「猛烈にしける」など)、時(「夜のはじめ頃」など)に関する予報用語が問われています。時の予報用語は「時間細分の用語」とも呼ばれます(後述)。
予報用語の詳細はこちらを参照してください。
②防災上の注意すべき事項
「『防災上注意すべき事項』の問題」の②で説明しました。
③その他
上の出題例では問われていませんが、予想資料から読み取った内容を問う問題はよく出題されています。
過去に完成問題で問われた内容は以下の通りです。
警報・注意報に関する出題
概要
警報や注意報は、気象などの現象により重大な災害、または災害の発生するおそれがあるときに、その旨を警告・注意して発表される予報です。
気象警報・注意報には特別警報(6種類)、警報(7種類)、注意報(16種類)、早期警戒情報(4種類)があり、これまでは警報、注意報について出題されています。
警報・注意報に関する出題には、①警報・注意報が発表される時間帯や対象地域を問うものと、②発表が予想される警報・注意報の種類を問うものの2パターンあります。
いずれも、資料から気象状況を読み取ることが求められます。
警報・注意報が発表される時間帯や対象地域を問う問題
【発表される時間帯を問う問題】
過去の出題: 41-1-5(1)、41-1-5(2)、47-2-4(3)
この問題は、与えられたガイダンス資料から警報や注意報の基準値を超える時間帯を答えるものです。
出題例を見てみます(41-1-5(2)、一部改変)。
ガイダンス資料を読み取り、風速と波高が警報・注意報の発表基準値を超える時間帯を答えさせる問題です。
【発表される対象地域を問う問題】
過去の出題: 42-1-3(4)②
過去の出題は一回のみです。与えられた資料から、竜巻と落雷の可能性が大きいと予想される県を読み取るものです。
解答するには、竜巻ナウキャストと雷ナウキャストの発生確度の意味を理解している必要があります。
【ポイント】
①ガイダンス資料を読み取る
試験では3時間単位の量的予報の数値が与えられます。過去に出題されたガイダンスの種類には降水量、土壌雨量指数、流域雨量指数、最大風速、波高、潮位などがあります。
ガイダンス資料の読み取り自体は、慎重に行えば難しいことはありません。
②警報・注意報が発表される時間帯(時間細分の用語)
ガイダンスから警報・注意報の発表基準を超える時間帯を読み取り、その時間帯を「府県天気予報での時間細分の用語」で答えることが求められます。
「府県天気予報での時間細分の用語」は、「一日の時間細分の用語」の名称で出題されたこともあります。
時間細分の用語は「専門知識」の知識なので、実技のみ受験の方は復習しておいてください。
注)時間細分の用語
③雷・竜巻発生確度ナウキャスト
雷ナウキャストは1〜4の活動度があり、活動度2以上で落雷の危険が迫っている状況です。
竜巻発生ナウキャストは1〜2の発生確度で、発生確度2で竜巻などの激しい突風が発生する可能性があります。
発表が予想される警報・注意報の種類を問う問題
過去の出題: 47-2-4(4)、49-1-5(1)②、50-1-5(3)、54-1-4(5)③
与えられた資料や前の問題で算出した結果をもとに気象状況を検討し、発表が予想される警報や注意報を答える問題です。
一例を見てみましょう(49-1-5(1)②、一部改変)。
この問題では注意報発表基準の一覧(表1)が与えられています。そして「気温観測値の時系列」(図12)と照らし合わせて、発表されるであろう注意報を解答します。
本問で注意が必要なのは雷注意報です。図12の気象観測値に雷の観測は記載がありません。しかし、冬型の気圧配置で上空に寒気が移流していれば対流雲の発達は十分予想されます。
【ポイント】
①気象状況の読み取り
降雪時の出題が圧倒的に多くなっています。850hPaで-6℃以下では降雪の可能性が大きいですが、地上の気温が0℃前後だと着氷のおそれがあります。
②警報・注意報
警報・注意報の発表基準は与えられます。したがって、前項①の気象状況の読み取りを確実に行うことが大切です。
これまでの出題内容を以下にまとめます。
防災事項の対策
定義を確実に理解し、暗記する
【警報と注意報の名称】
特別警報(6種類)、警報(7種類)、注意報(16種類)の名称は確実に覚え、内容を頭に入れておきます。
【ナウキャスト情報】
竜巻発生確度ナウキャスト、雷ナウキャストの名称を覚え、それぞれのレベルの意味を理解します。
- 竜巻発生確度ナウキャスト
発生確度2: 竜巻などの激しい突風が発生する可能性がある(竜巻注意情報も発表する) - 雷ナウキャスト
活動度2~4: 既に発生している雷
【予報用語】
降水(「非常に激しい雨」など)、風(「猛烈な風」など)、波浪(「猛烈にしける」など)、時間細分の用語(「夜のはじめ頃」など)に関する予報用語を定義とともに覚えてください。
予報用語の詳細はこちらを参照してください。
【都道府県名】
白地図で47都道府県名を言えるようにします。防災事項に限らず、気象予報士試験では九州が出題されやすいようです。
【雪の防災事項】
着雪
雪で注意すべき現象として、着雪がよく問われます。着雪は気温が0℃付近で、湿った雪が付着することで発生しやすいとされています。「気温0℃付近」「湿った雪」「着雪」をひと括りにして覚えてください。
暴風雪
降雪を伴う暴風を暴風雪と言います。雪がメインではなく、風がメインであることを理解してください。天気図では寒気の流入だけではなく、気圧の傾き(等圧線が混み合っている)ことで確認できます。
暴風雪の災害としては、猛ふぶきや吹きだまりによる交通障害、暴風、高波が考えられます(すべて風と関連していますね)。
北海道では雪による視程障害も災害に追加されます。これは北海道の軽い雪質を考慮した結果です。
そのほかの雪の防災事項については、こちらにまとめてあります。
(参考)
ふぶき: やや強い風程度以上の風が雪を伴って吹く状態
猛ふぶき: 強い風以上の風を伴うふぶき。
洪水
洪水は大雨によるものだけでなく、早春の融雪によっても発生します。気温が上昇して雪解けが進むと、河川が増水して融雪洪水になることがあります。
河川の増水や氾濫に警戒・注意が必要です。
現象・気象状況・防災事項の関係を理解する
どのような気象状況の時にどのような現象が発生し、その時の防災事項は何が想定されるのか。過去に発表された気象情報から対応関係をまとめておくと良いでしょう。
この作業には時間を要するため、対応関係をまとめました。ここに挙げたものが全てではありませんが、候補として頭の中に入れておけば試験でも役に立つはずです。
参考までに、各現象に対する気象情報の実例を以下に記載します。
【大雪】
【暴風雪など】
【融雪など】
【洪水】
【大雨など】
【雷など】
「らくらく突破 気象予報士簡単合格テキスト 実技編」(技術評論社)の付録(P.417〜426)に防災事項が詳しく解説されています。お持ちの方は、記述対策に目を通しておくことをお勧めします。
最後に
本稿の作成には苦労しましたが、少しでもみなさまの効率的な学習に貢献できれば嬉しく思います。
がんばりましょう!
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