トラフを理解する(2)  収束と発散

トラフについて理解する連載の2回目です。

前回の1回目は、トラフの理解を深めました。

  • トラフとは、低気圧の盛衰を予測するための目安となる等高度線の形状のこと
  • トラフは寒気を伴うことが多い
  • トラフを解析するには、地上低気圧と寒気場から「あたりをつける」と良い

今回は、低気圧や高気圧の発達に直接関わる「収束と発散」について学んでいきます。

 

気圧差を解消して家の侵入者を退治する

以前、NHKで面白い話を紹介していました。 →NHK ガッテン

窓を開けていないのに、家の中に小さい羽虫が入り込んでくるというのです。調べてみると、そのようなお宅では換気扇が回っていました。

換気扇を回すだけだと家の中の気圧が下がってしまい、わずかな隙間から虫が吸い込まれてしまうのです。今の住宅はそれだけ気密性が高いんですね。

換気扇を回すときは同時に窓を網戸にして開けることで外との気圧差がなくなり、空気や虫の吸い込みも解消されるというお話でした(図1)。

図1 空気の流れ

 

これって、低気圧と高気圧の発達を理解する上では、とても示唆に富んだ内容です。

 

発達する低気圧の仕組み

中学の理科の参考書にこんな図が出ています(図2)。かなり本質を突いた図です。

図2 低気圧と高気圧の立体構造

 

地上の低気圧に風が吹き込む場合を見てみましょう。

四方から空気が集まってくると、空気は上方にしか行きどころがなくなります。このため上昇流となって対流圏を上昇していきます。その過程で空気に含まれる水蒸気が凝結して雲ができたり、雨が降ったりします。

しかし、対流圏界面を超えて上昇が続くことはありません。上層で風は吹き出し、上空を流れていきます。そして、別のところで吹き込み下降流となり、地上の高気圧から吹き出します。

このように、低気圧と高気圧はそれぞれ鉛直方向と水平方向に風を融通し合うシステムになっています。

低気圧の部分に注目すると、地上で空気を吸い込んでいるのが「収束」、上層で空気を吹き出しているのが「発散」になります。

地上に収束があっても、上層に発散がないとどうなるでしょうか。地上で収束した空気がどんどん積み上がっていくので気圧が上昇し、低気圧は解消します。冒頭に紹介した話の逆のようなケースです。

低気圧の動向を把握するには、地上ばかりでなく上層にも目を向けるのはこのような理由からです。低気圧が発達するのは地上の低気圧と上昇の気圧の谷の連携が必要で、これをカップリングと言います。

 

発散・収束の発生

発散や収束はどのように発生するのかを考えてみます。通常、大気中の空気は一様の密度で分布していますが、何らかの原因で空気が薄くなると発散、濃くなると収束が生じます。

このような状態が生まれるのは、(1)空気の流れの方向が変化する(風向による発散)、あるいは(2)空気の速さが変化する(風速による発散)の2ケースです。

等高度線の間隔が広くなったり狭くなったりして、等速で吹いている風の向きが変化するのが風向による発散・収束です(図3)。風向が外向きになるのが発散、内向きになるのが収束です。これは高速道路でレーン数が増えたり減ったりするのと似ています。

図3 風向の変化による発散・収束

 

一方、等高度線の間隔は不変で、下流ほど風速が速くなったり遅くなったりすることで発生するのが風速による発散・収束です(図4)。速度が増すのが発散で、減るのが収束です。高速道路で渋滞から抜けるのと、渋滞に近くのに似ています。

風速による発散場を加速場、収束場を減速場ということもあります。

図4 風速の変化による発散・収束

 

したがって、発散(収束)は風向による発散(収束)と風速による発散(収束)の合計と考えることができます。

収束・発散 = 風向の収束・発散 + 風速の収束・発散

 

トラフとリッジ

上空で吹く風を考えてみます。

トラフとリッジは曲率があるので傾度風が吹きます。また、トラフとリッジの間は地衡風が吹いていると考えられます(図5)。

図5 収束と発散

傾度風と地衡風の風速の間には、次の関係があります。

高気圧性の傾度風(Va) > 地衡風(Vg) > 低気圧性の傾度風(Vc)

この関係を思い出せない方のために、本記事の最後に簡単にまとめてあります。

 

風はリッジを通過してトラフに向かうと減速するため、収束が発生します。行きどころを失った空気の一部は下降します。したがって、リッジの前面(トラフの後面)では下降流を生じ、地上では良い天気になります。

風の速さはトラフで最も遅くなりますが、ここを通過すると次のリッジに向かって加速していきます。したがってトラフの前面では発散が発生し、不足する空気を補うために上昇流が生じます。

これをまとめると、次のことが言えます。

  • トラフの前面は発散場(=加速場)である
  • リッジの前面は収束場(=減速場)である

 

500hPa面は非発散場である

トラフの追跡は500hPa天気図で行います。その理由について、「500hPa面付近は非発散面であり渦度が保存されやすいため、渦度解析に適している」とされています。

長くて分かりにくい説明文ですが、ここでは「500hPa面付近は非発散面である」というところに注目したいと思います。

500hPa天気図を見ると向きや速さの変化があり、発散はありそうです。それなのに「非発散面」とはどういうことでしょうか。そのイメージを考えてみましょう。

10月のある日の500hPa天気図の一部を図に示します(図6)。分かりやすいように、関連する部分だけを天気図の右側に抜き出してみました。

図6 500hPa面天気図(2020年10月5日00UTC)

 

500hPa 5400mに−27℃以下の寒気を伴う寒冷低気圧があります。その東側を見ると、トラフ前面の5460mと5520mの間の等高度線の間隔が広がっています。これに伴い、風向が南西から南南西に変化しています。これは風向の変化による発散です。

一方、風速は95kt、60kt、30ktと減速しています。これは風速の変化による収束です。

すなわち、風向きの変化による発散と風速の変化による収束が同時に生じ、これらが打ち消しあうことで発散・収束が0(非発散)の状況になっていると考えられます。

発達する低気圧では、地上に収束があれば上層には発散があります。地上から高度を上げていくと、収束は次第に弱まっていきます。逆に上層から高度を下げていくと、発散は次第に弱まっていきます。すなわち、中層付近に発散が0になる発散場があることになります。

このイメージを図7の左に示します。発散が0になるのが500hPa付近です。なお、発散が0になる高度で上層速度(鉛直速度)の変化率は0になるので、図7の右のように上昇速度は最大となります(連続の式)。これについては、連載の第4回で触れる予定です。

図7 発散と上昇速度の鉛直プロファイル

 

まとめ

  • 発達する低気圧には、地上の収束と上層の発散が必要である
  • トラフの前面には発散場、リッジの前面には収束場がある
  • 地上の収束場では低気圧性循環の風が吹き込み、上層の発散場では上昇流が吹き出す

次回は渦度についてまとめる予定です。

※本連載はしばらく休載します。

 

傾度風と地衡風の風の吹き方を確認します。

  • 風は高気圧性循環では右回り、低気圧性循環では左回りに吹く
  • 気圧傾度力は気圧の高い方から低い方に働く
    • 高気圧性循環では外向きに働く
    • 低気圧性循環では内向きに働く
  • コリオリ力は風の直角右方向に働く

これを絵に描いて、力の釣り合いを考えます(図8)。

図8 傾度風と地衡風の力の釣り合い

 

力の釣り合いから求めたコリアリ力をまとめます(表1)。

表1 コリオリ力

 

コリオリ力は風速にコリオリパラメータfを乗じたものなので、風速について次の関係が成り立ちます。

高気圧性の傾度風(Va) > 地衡風(Vg) > 低気圧性の傾度風(Vc)

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「トラフを理解する(2)  収束と発散」への2件のフィードバック

    1. 見ていただいてありがとうございます。
      筆が遅いのですが、分かりやすく書けるように頑張ります。
      勉強を頑張ってください!

      0

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