近年、降水に山の地形を絡めた問題が立て続けに出題されています。その多くは地形図を参照させて、山が気象にどのような影響を与えているかを考えさせるものです。
このような問題の多くは事前知識があれば円滑に解くことができます。そこで過去の問題を中心に、必要な知識をまとめていきたいと思います。
基礎知識
まずは、気象に関心を持つ人なら最低限、知っておきたい知識を押さえましょう。
主な山地・山脈
日本の主な山脈と山地を覚えておきましょう(図1)。
東北には奥羽山脈(脊梁山脈)、中部には中部山岳(飛騨山脈、赤石山脈、木曽山脈)、東海には紀伊山地、西日本には中国山地、四国山地、九州山地があります。
この図を見ると、西日本に「山地」、北東日本に「山脈」が多いような気がします。山地とは、「山が集まり、ひとつにまとまっている地域」のこと。そして、山脈とは、「山が列となってひとつづきに連なったもの」のことだそうですが、大差ないと思って大丈夫でしょう。
試験では山の名称が問われることはありませんが、どのようなところに位置するのかを確認しておいてください。海に近い山では、海から湿った空気が入ってくると天気が崩れやすくなり、場合によっては災害をもたらす危険性もあります。
次項でも述べますが、紀伊山地、四国山地、九州山地は、そのような立地にあります。
年間降水量の多い地点
国内で年間降水量の多い地点名も、常識として覚えておきましょう。年間降水量の多いところは大雨も降りやすいところで、台風や梅雨期にはよく耳にする地名ばかりです。
順位 | 地点 | 年間降水量(mm) |
---|---|---|
1 | 屋久島<鹿児島県> | 4477.2 |
2 | えびの<宮崎県> | 4393.0 |
3 | 魚梁瀬(やなせ)<高知県> | 4107.9 |
4 | 尾鷲(おわせ)<三重県> | 3848.8 |
5 | 宇奈月(うなづき)<富山県> | 3566.2 |
(1981〜2010年の統計に基づく)
各地点には次のような共通項があります(宇奈月を除く)。
- 太平洋に面しており、黒潮の暖かく湿った空気が入りやすい
- 地点の北〜西に山間部がある(太平洋を向いた斜面に暖湿気が入りやすい)
なお、宇奈月は北アルプスの北部に位置し、冬季には北西風による積雪が多い地点です。
山地斜面
山の斜面に湿った空気が吹き付けると、上昇流によって発生した雲が雨を降らせます。降水量多ければ土砂崩れを起こしたり、浸水や洪水をもたらします。
▼斜面方位
「南西斜面」「南西に開けた斜面」のような「⚪︎⚪︎向きの斜面」の意味を確認しておきましょう。
山を上空から見下ろした時の斜面の名称を図2に示します。斜面の方位(斜面の向いている方向)は8方位で表します。
斜面の名称と風向が一致していることに注意してください。例えば、南東斜面には南東風が吹き付け、南西斜面には南西風が吹き付けます。
日本周辺では一般的には台風や低気圧が北上するため、南側の斜面に吹き付ける風が多いということを理解してください(図3)。
▼方位別斜面の特徴
地球は傾いた地軸を中心に自転しています。太陽は東の空から出て南の空を通り、西の空に沈んでいきます(図4)。
予報士試験で問われたことはありませんが、この機会に北向きと南向き斜面の特徴を覚えておきましょう。
【北向きの斜面】 日当たりが悪く、気温が上がりにくい。日没が早い。
【南向きの斜面】 日当たりが良く、気温が上がりやすい。日没が遅い。
応用知識
続いて、これまでの出題をベースに応用知識をまとめてみます。各項の終わりに該当する過去問と解答をつけてありますので、参考にしてください。
※問題に図はつけてありませんので、適宜、気象業務支援センターのサイトや関係資料を参照してください。
地形効果
湿った空気が山にぶつかり斜面に沿って上昇し、気温降下により水蒸気が飽和することで雨が降ることを一般的には地形効果と言います。山岳地形によって降雨が強化されることも含めて地形効果と言うようです。
地形効果による降水には様々なパターンがあります。その代表的なものを見ておきます。
出典:Houze
(a)は山岳付近にある層状性の雲(次の(b))の上空にもう一段の雲があり、そこから落ちてくる雨粒が山岳付近の雲を通過する際に成長します。
(b)は、山にぶつかった風が斜面に沿って強制上昇し、層状性の雲が形成されて雨が降ります。
(c),(d)は、形成された上昇気流により山岳上、あるいはそれより手前に対流雲が発生するケースです。(a)、(b)は中層より上が安定していますが、(c)は大気の状態が不安定な場合です。
(e)は山が日射により暖められ、対流雲が発生します。
(f)は、山の反対側(風下側)に回り込んだ空気が収束して、上昇流が発生するケースです。大きな規模で見れば、冬の日本海で発生するJPCZ(日本海寒帯気団収束帯)もこのパターンです。
予報士試験では、降水図と地形図を並べて、どのようなところで雨が降るか?という出題がよく出されます。「風が山にぶつかり上昇するところ」をベースに、出題内容に合わせて適宜作文すると良いでしょう。
▼出題事例
13 時に東京都と神奈川県との境付近にみられる降⽔エコーX が,⾵の場と地形のどのようなところに現れているかを,⾵向に⾔及して20 字程度で述べよ。
<解答>
北東の風が山地にぶつかって上昇する場所
降水短時間予報によると,1時間後に激しい雨が予想され,2時間後にはその範囲が広がり3時間後にふたたび狭まっている。この結果,どのような地域で積算雨量が多く予想されているかを,問3(1)の地形図,図10および降水短時間予報の手法に着目して25字程度で述べよ。3時間後の予報までは,数値予報の予想雨量の影響は加味されていないものとする。
<解答>
強い暖湿気流が山にぶつかり上昇し,雨が強まる地域
降水量ガイダンス
解析雨量などの実況降水図と、全球モデル、メソモデルの降水量予想図を比較して、数値予想モデルの特徴や地形の与える影響を答えさせる問題が出題されています。
解析雨量図は、気象レーダーとアメダス観測データを用いて前1時間雨量値を解析したものです。推定値ではありますが、事実上の実況値と言えます。
一方で、全球モデル(GSM)とメソモデル(MSM)は降水量予想図を作成するのに用いられます。各モデルの主な特徴を確認しておきましょう。
GSM(全球モデル) | MSM(メソモデル) | |
---|---|---|
水平分解能(格子間隔) | 20km | 5km |
支配方程式 | 静力学近似プリミティブモデル | 非静力学モデル |
予報目的 | 短期予報、府県天気予報など | 防災気象情報、降水短時間予報など |
台風や低気圧のような総観規模の現象を扱う全球モデルに対して、豪雨などのメソ現象を扱うメソモデルは2つの工夫をしています。これはしっかりと押さえておきましょう。
①非静力学モデルの採用
全球モデルでは鉛直方向の気圧傾度力と重力がほぼ釣り合う静力学モデルを採用しました。全球モデルは台風や低気圧のような総観規模の現象を対象とするため、水平スケールに対して鉛直方向は無視できるからです。
しかし、顕著な降水現象の多くは積乱雲によって発生します。その水平スケールは数十km以下であり、全球モデルのように鉛直方向の加速度を無視できなくなります。このため、メソモデルでは鉛直方向にも運動方程式を使います。これを非静力学モデルと言います。非静力学モデルを採用することで、積雲対流の上昇運動を表現することができるようになりました。
②水平分解能の向上
メソモデルは全球モデルと比べて格子間隔が小さいため、地形の表現性が向上します。すなわち、全球モデルと比べると、地形による強制上昇による雲や降水をより現実に近く表現できるようになります。
水平分解能とは難しい用語ですが、解像度のことです。テレビのクイズ番組では、モザイクをかけた画像を見せて、それが何の写真か当てさせることがあります。モザイクが小さいほど、画像はより鮮明に見えるようになります。全球モデルよりもメソモデルの方が表現性に優れるというのは、これと似たことだと言えそうです。
下の図(図6)は、左が全球モデルの地形、右がメソモデルの地形です。地形の凹凸はメソモデルの方がより精彩に表現されているのが分かります。
出典:気象庁
合わせて、各モデルの予測結果の違いも確認しておきましょう(図7)。
出典:気象庁
一番左が全球モデル、その隣がメソモデルです。両者を見比べると、メソモデルでは次のことが言えます。
- 全球モデルと比べて狭い範囲での強い上昇流を表現できる
- 計算される凝結量(降水量)はメソモデルの方が最大値が大きく、集中度も強く(幅が狭く)なる
▼出題事例
第53回 実技1 問3(5)③
GSM ガイダンスとMSM ガイダンスにおける,降⽔量が多い場所の違いとその要因を,書き出しを含めて,55 字程度で述べよ。
<解答>
MSMガイダンスは,MSMのモデル地形の分解能が高いため,実際の山地の南西斜面を中心にきめ細かく予想している。
図11 の領域X,Y,Z に対する⼆つのモデルの予想について述べた次の⽂章の空欄((a))〜((e))に⼊る適切な語句を答えよ。
領域X は,(a)に伴う降⽔域である。台⾵は温帯低気圧に変わりつつあり,地形の影響も受け,降⽔域は台⾵の経路に沿った軸対称から偏りを持った分布をしている。領域X の3 時間30mm 以上の降⽔量の範囲は,(b)モデルのほうが,(c)モデルより広く予想している。
領域Y には,帯状の強⾬域がみられる。その強⾬域は(b)モデルでははっきり予想されていない。(c)モデルでは,形状,予想位置ともに解析⾬量に類似した予想となっている。(c)モデルによる3 時間30mm 以上の降⽔量の範囲は解析⾬量より(d)。
領域Z では,主に(e)の影響によって,降⽔量が多くなったとみられる。モデル地形が実際の地形により近い(c)モデルのほうが,解析⾬量による実況に近い。
<解答>
(a)台⾵の渦(台⾵本体) (b)全球 (c)メソ (d)広い (e)地形
台風の地形分裂
台風や大きな低気圧は山脈などの地形の影響を受けて、その中心域の等圧線が伸びるように変形したり、分裂することがあります(図8)。その結果、台風の中心がジャンプするように見えることもあります。
これは、山の斜面を風が上昇すると渦度が変化することに起因します。
最近では2017年8月に日本に上陸した台風5号が中部山岳地帯で南北に分裂し、北側の渦が主体になりました。
分裂メカニズムを理解する必要はありません(渦度方程式の理解が必要)が、山岳によってこのような現象が発生することを覚えておきましょう。
▼出題事例
988hPaの等圧線に囲まれた台⾵中⼼域の気圧分布の特徴を,本州の脊梁⼭脈との関係を含めて45 字程度で述べよ。
<解答>
本州の脊梁山脈の影響で気圧場が変形し,気圧の低い部分が山脈をまたいで二か所に分かれている。
フェーン現象
気象予報士試験の一般知識では、山越え気流が風下側でどの程度昇温するかを算出する問題が出ることがあります。実技では「フェーン現象」という言葉や、フェーン現象の内容を答えさせるだけの出題がされています。
▼出題事例
富⼭では,1 時から2 時にかけ湿度100%だったが,3 時以降南⻄⾵の強まりと露点温度の下降とともに⽇中にかけ気温が急激に上昇した。これは,空気塊が⼭を越えて富⼭に流れ込んできたためと考えられる。この現象名を答えよ。
<解答>
フェーン現象
図7(下)の⾵および図10 に着⽬して,②の要因を15 字程度で述べよ。
<解答>
山岳の風下の下降流による昇温(フェーン)
最後に
レーダーエコーで降水強度の大きいところは地形性強化による可能性を考え、その都度地形図で確認すると山地の理解が進みます。
そのためには、国土地理院の色別標高図を使うことをお勧めします。拡大すると山地名とともにその凹凸をはっきりと理解することができます。
※国土地理院 色別標高図はこちら
【参考記事】
「数値予報について 〜概要と近年の改良に伴う特性の変化」(気象等の情報に関する講習会、気象庁)
「ありがとう日本アルプス」今回も台風から長野県を守る そのメカニズムは(産経ニュース)
Houze, R. A. Jr., 1993. Orographic Clouds, in Cloud Dynamics, Academic Press