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台風の消滅

台風は地上に上陸すると風速が落ち、温帯低気圧に変わったり熱帯低気圧になりやがて消滅します。

今回は台風が温帯低気圧や熱帯低気圧に変わる過程を、過去の事例を通して学んでいきたいと思います。

熱帯低気圧と温帯低気圧の違い

熱帯の海上で発生した熱帯低気圧は、最大風速がおよそ17m/sを超えると台風と呼ばれるようになります。

熱帯低気圧が発達するためのエネルギー源は、暖かい海から水蒸気を含んだ空気が蒸発して上昇する時に放出する凝結熱です。

一方、温帯低気圧は高緯度と低緯度の温度差をエネルギー源として発達します。

したがって、台風が衰えるときに単に風速が落ちて熱帯低気圧になるのかあるいは温帯低気圧になるのかは、その時点の発達メカニズムを見ることで判断することができます。

台風の消滅に至るプロセスは、概ね図1に示した通りです。

図1 台風の消滅パターン

 

①台風→温帯低気圧→消滅
②台風→熱帯低気圧→消滅

なお、②の亜流として「台風→熱帯低気圧→台風→熱帯低気圧→消滅」のパターンもあります。最近では2025年の台風第8号が復活台風となりました。

具体的な事例を見る前に、台風であることの条件を確認しておきます。

台風が台風であるための条件

台風であるための主な条件を挙げると次のようになります。

  • 地上の等圧線がほぼ同心円状である
  • 台風の中心付近にウォームコアや暖気がある
  • 低気圧性循環の中心軸がほぼ鉛直である
  • 台風の中心付近で等相当温位線が混んでいる
  • 乾燥域が台風の南まで侵入していない

逆に言えば、これらの条件が満たされなくなると温帯低気圧に変わっていくことになります。

温帯低気圧化は徐々に進行していきますので、それを具体例で見ていこうと思います。

①台風→温帯低気圧→消滅

2024年の台風第21号の事例です。

【台風第21号の概要】

  • 10月24日09時 熱帯低気圧発生
  • 10月25日03時 台風第21号発生(大型の台風)
  • 10月30日09時 最も発達(925hPa)
  • 11月01日21時 温帯低気圧に変わる
図2 台風第21号の経路図

 

最盛期(10月30日09時)の状況

図3に、台風の最盛期の地上天気図と衛星画像(可視)を示します。

図3 台風21号最盛期の (a)地上天気図、(b)可視画像

 

台風の中心気圧は925hPaで等圧線は同心円状にまとまっています。可視画像では台風の眼が明瞭で、その周りに円形の濃密な雲域が現れています。

図4に、同一時刻の300hPaから850hPaの天気図を示します。
地上の台風の位置を×で、ウォームコア(W表示の暖気核)を赤丸で表示してあります。

図4 台風第21号最盛期の高層天気図

【特徴】

強風軸は台風の北側に位置する(300hPa)
台風中心の鉛直軸上にウォームコアが位置する(300hPa, 500hPa, 700hPa)
台風周辺の気温は一様である(500hPa, 850hPa)

注)「気温が一様」とは、台風周辺に温度傾度がないことです。温帯低気圧化が進むと温度移流により等温線が混み合ってきます。

当然のことながら、この時点では台風の特徴がよく現れていることが確認できます。

では続いて、初期時刻(T=0)を10月30日21時として、変化を追ってみます。

T=0(10月30日21時)

図5に、T=0における300hPaから850hPaの天気図を示します。

図5 T=0の高層天気図

 

これによると、850hPaから300hPaまで、ウォームコアは台風の中心位置と一致して鉛直軸は立っています。

また、台風は300hPaの強風軸(寒帯前線ジェット)からまだ離れていることが分かります。

これらのことより、この時点では台風としての性格が顕著であると言えます。

T=24(10月31日21時)

図6に、T=24における300hPaから850hPaの予想天気図を示します。
500hPaの正渦度極大値を青丸で表示してあります。

図6 T=24の予想天気図
【特徴】

この時刻では850hPaで顕著な変化が見られます。台風の西側で北風が吹き、等温線(18℃線)が垂れ下がり始める予想です。

等圧線は同心円状である(地上)
 台風中心の鉛直軸上に正渦度極大値がある(500hPa)
 下層で、ウォームコアが台風中心からややずれている(850hPa)
× じょう乱(台風)の後面に寒気が入り始める(850hPa)
・ 降水域がじょう乱(台風)の東側に広がり始める(地上)

T=36(11月1日9時)

図7に、T=36における300hPaから850hPaの予想天気図を示します。

図7 T=36の予想天気図

【特徴】

850hPaでは台風の西側の寒気移流が明瞭になり、700hPaでは乾燥空気(乾気)が台風の東側に回り込む予想です。

 正渦度は台風中心の真上にある(500hPa)
△上昇流極大点が台風中心からやや北側にずれる(700hPa)
× 等圧線は北北東から南南西の方向にのびる(地上)
× ウォームコアは台風中心の鉛直軸上からずれる(850hPa)か不明瞭になる(700hPa)
× じょう乱の後面に寒気が入り(850hPa)、南側に乾燥域が流入する(700hPa)

T=48(11月1日21時)

図8に、T=48における300hPaから850hPaの予想天気図を示します。

図8 T=48の予想天気図

【特徴】

強風軸が南下してきて、北上してきた台風が取り込まれようとしています。

× 強風軸がじょう乱(台風)まで南下する
× 等圧線の同心円は崩れ(地上)、ウォームコアはない(700hPa, 850hPa)
× 上昇流極大点が台風中心の北北東にずれる(700hPa)
× 後面から寒気が流入し(850hPa)、前面まで乾燥域が流入する(700hPa)
× 降水域がじょう乱の前面に広がり、寒冷前線に相当する降水域も予想(地上)

T=48の実況

実況では台風第21号は、T=48の時刻(11月1日21時)に温帯低気圧に変わりました。

図9 温帯低気圧に変わった時刻の(a)地上天気図、(b)赤外画像

 

図9によると、台風だった温帯低気圧は強風軸に流され、850hPaで18℃線に対応する前線を伴っています。

また、赤外画像ではバルジ状の雲域が発達し、温帯低気圧の特徴がよく現れています。

 

まとめ

2024年台風第21号の特徴(予想)を表1にまとめます。

表1 台風第21号の特徴

 

実況ではT=48(11月1日21時)に温帯低気圧に変わりました。しかし、予想天気図からは後面の寒気移流はT=24から見られ、T=36では温帯低気圧の特徴がかなり顕著になります。

このように、温帯低気圧化はある時刻を境にしてメカニズムが急変するのではなく、その前の時刻から徐々に変化していくことが分かります。

では続けて、台風の風速が遅くなり熱帯低気圧になる事例を見てみましょう。

 

②台風→熱帯低気圧→消滅

台風の特徴を保ちつつ風速が弱まっていくのが熱帯低気圧になるケースです。先の①の温帯低気圧に変わるときのような温度移流は見られません。

2024年の台風第5号の事例で見ていきます。

【台風第5号の概要】

  • 8月05日15時 熱帯低気圧発生
  • 8月08日03時 台風第5号発生
  • 8月9日03時〜8月12日03時 最盛期(980hPa)
  • 8月12日15時 熱帯低気圧に変わる
図10 台風第5号の経路図

 

この台風は最盛期で980hPaと気圧としてはさほど強くないものの最盛期の期間が3日間と長く、三陸沖から東北を通過するまでの時間が長かったのが特徴です。

最盛期(8月11日09時)の状況

図11に、台風第5号の最盛期の地上天気図と衛星画像(可視)を示します。

図11 台風第5号最盛期の (a)地上天気図、(b)可視画像

 

台風の中心気圧は980hPaで等圧線は同心円状にまとまっています。

可視画像では台風の中心付近に発達した対流雲域があり、中心の南側にも低気圧性曲率の発達した対流雲の雲列があります。また、台風の北側には上層雲が見られます。

ちなみに、台風の眼は中心気圧が955hPa前後で明瞭になると言われています。

図12に、同一時刻の300hPaから850hPaの天気図を示します。

図12 台風第5号 最盛期の高層天気図

 

【特徴】

強風軸は台風の北側に位置する(300hPa)
台風中心の鉛直軸上にウォームコアが位置する(300hPa, 500hPa, 700hPa, 850hPa)
台風周辺の気温は一様である(500hPa, 850hPa)

では続いて、この時刻(8月11日9時)を初期時刻(T=0)として変化を追ってみます。

T=24(8月12日9時)

図13に、T=24における300hPaから850hPaの予想天気図を示します。

図13 T=24の予想天気図

 

【特徴】

強風軸は台風の北側に位置する(300hPa)
台風中心の鉛直軸上に正渦度が維持されている(500hPa)
台風周辺の気温は一様である(850hPa)
上昇流極大値(700hPa)とウォームコア(500hPa, 850hPa)は台風中心のほぼ鉛直軸上にある

T=30の実況

T=24の時刻から6時間後(8月12日15時)に、台風第5号は熱帯低気圧に変わりました。この時刻における地上天気図と衛星画像(可視)を図14に示します。

図14 熱帯低気圧に変わった時刻の(a)地上天気図、(b)赤外画像

可視画像では台風の眼が残っており、反時計回りの渦も確認することができます。

なお、地上天気図では「台風5号」と表記されています。当時の報道でも「13 日 3 時には津軽海峡の西で熱帯低気圧に変わった」とされていましたが、その後の再解析で12日15時に熱帯低気圧になったと修正されたようです。

T=36(8月12日21時)

図15に、T=36における300hPaから850hPaの予想天気図を示します。

図15 T=24の予想天気図

 

【特徴】
強風軸は台風の北側に位置する(300hPa)
台風中心の鉛直軸上に正渦度が維持されている(500hPa)
台風周辺の気温は一様である(850hPa)
上昇流極大値(700hPa)とウォームコア(500hPa, 850hPa)は台風中心の鉛直軸上にある

850hPa相当温位の予想図

T=0, 12, 24, 36の850hPa 相当温位の予想図をまとめて図16に示します。

図16 850hPa相当温位予想図(T=12, 24, 36)

 

台風中心付近の等相当温位線の間隔は時間とともに開いていきますが、同心円の形状は維持されています。

 

まとめ

2024年台風第5号の特徴(予想)を表2にまとめます。

表2 台風第5号の特徴

 

先の温帯低気圧に変わる事例と比べると、鉛直軸や気温の一様性などが維持されていることが分かります。

最後に

台風が衰えて温帯低気圧や熱帯低気圧に変わる過程を見てきました。

台風の後面からトラフが接近してくると、温帯低気圧に変わっても再度発達するケースもあり、2度と同じパターンはありません。

今度台風が到来したときは、今回紹介した着眼点を参考に解析をしてみてはいかがでしょうか。

出典:気象衛星画像は「JAXAひまわりモニタ」、それ以外の天気図は気象庁天気図を加工して作成しました。

 

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「台風の消滅」への2件のフィードバック

  1. 更新ありがとうございます。台風の温帯低気圧化、熱帯低気圧への変化について丁寧に整理されていて良く理解できました。気象予報士試験の受験生の方にも有益な内容と思います。

    1点誤りでは?と思う所がありました。
    熱帯低気圧についての記述で
    T=30の実況
    (1行目)ーーー、台風第5号は温帯低気圧に変わりました。
      ⇒  ーーー、台風第5号は熱帯低気圧に変わりました。
    ではないでしょうか?

    1. 間違いの指摘をありがとうございます、助かります!
      本稿完成まで2ヶ月以上かかりだいぶ苦しみました。
      類似問題が第64回で出題されましたが、7月の講習会で本内容を解説しているので受講した方が合格したことを祈ります!

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