更新:
相当温位の読み取りを修正しました(2025.5.30)
図7を修正しました(2025.5.27)
試験で出題される等値線の読み取りには、等圧線、等高度線、等温線、等相当温位線などがあります。
すべての等値線にその値が表記されているわけではないので、周辺に書かれた値から読み解く必要があります。しかし、これが意外と難しいことがあります。
また、値そのものを読み取らせるのではなく、読み取った値をもとに分布の特徴を記述させる問題が多い印象です。出題者は何を意図してこのような問題を出しているのでしょうか。
今回は前半で値の表記が省略された等値線の読み方を確認した後に、後半で過去問題を解いてみましょう。
省略された等値線の読み方
等圧線より読み方がやや難しい等温線について確認していきます。
等温線
気温は一般的に高緯度(北側)ほど下がっていくので、等温線を丹念に1本ずつ追っていけば読むことができます。
少し難しいのは次のような閉じた等温線のケースです(図1)。

赤い破線枠の中のひょうたん型に閉じた等温線は何℃と読むのでしょうか。
その前に、こちらの例題を見てください(図2)。
赤い破線枠の中に「12」と書かれた閉じた等温線があります。この等温線より内側の気温は12℃より高いのでしょうか、低いのでしょうか。

この閉じた領域は、高緯度側の9℃線と低緯度側の12℃線に挟まれています。閉じた等温線の中の気温が9℃〜12℃の間であれば、そもそもこの閉じた等温線を書く必要はありません。
ということは、この中の気温は9℃より低いか、あるいは12℃より高いことになります。
もし、9℃より低いのであれば、閉じた等温線の値は9℃であるはずです。したがって、ここは12℃より高いことになります。
ここまで理解できれば、あと一歩です。もう一回、図1の天気図を見てみます。
よく見ると、閉じた等温線の中に「C」のスタンプが押されています。この領域は高緯度側の−18℃線と低緯度側の−15℃線に挟まれており、その低い方(C)を意味するので、等温線の値は「−18」となります。
したがって、この領域の気温は「−18℃より低い」ことになります。
過去問題(55-2-4(2))
では過去に出題された事例を見てみましょう。鉛直断面図で示された相当温位と湿数の分布の問題です(第55回実技2問4(2))。
図を用いて、内之浦上空の21時の大気の状態に関する以下の問いに答えよ。

一般に入手できない鉛直断面図のような図を出題するのは適当ではないですね。見慣れない図ですが、他の受験生も同じです。慌てずに、まず図の下に書かれている凡例をよく読みましょう。
2種類の線が書かれていることが分かります。実線は相当温位(単位はK)で、1Kずつ書かれています。太線は3Kごとに書かれています。
破線は湿数(単位は℃)で、1℃ずつ書かれています。3℃ごとに太い破線で書かれています。
もう少し我慢して、H, LとD, Wの表記についても確認しましょう。
H, L は相当温位の極大値と極小値とあるので、この図の領域内ではLが相当温位が最も低いことを表します。
D, Wは湿数の極大値と極小値とあるので、やはりこの図の領域内ではDが湿数が最大で、Wが最小になります(理論上、湿数の最小値は0℃です)。
おそらく、H=High、L=Low、D=Dry、W=Wetの略称と思われます。
(参考)極大と最大、極小と最小
実技試験の図に出てくる「極大」とは、「その周辺での最大」ということです。例えば、図3における相当温位の極大値は後述するように327Kですが、図の領域外ではそれより高い相当温位があるはずなので、327Kは最大値ではありません。
極大はその周辺における「最大」と思っておけば良いでしょう。極小と最小についても同様です。
等値線を読み取る
相当温位の読み取り
相当温位線の値は「315」のみが示されており、そのほかの値は自分で読み取る必要があります。
右側の縦軸に相当温位の値を記入し、見やすいように1Kごとに色塗りしてみました(図4)。
図4 相当温位の読み取り
図の中央部右端に「L」と表記されているので、一番内側の実線が相当温位の極小値(314K)です。相当温位はここから半同心円に高くなっていきます。
910hPaから820hPaにかけて色を塗っていない領域があり、その内側には太線があるのみです。323Kに相当する線がないので、この太線は321Kと読むことができます。問題を解くのに必須ではないので、無理して読み取らなくても問題はありません。
湿数の読み取り
湿数は「6」のみが示されており、「D」と「W」がそれぞれ一ヶ所記入されています。
等値線が混み合った部分があるので、慎重に読み取りながら湿数の値を書き込んでいきます(図5)。

図の中央部右端に「D」とあるので、ここが湿数の極大値です。湿数が極大ということは、乾燥しているということです。
破線と実線が入り乱れているのと、「D」を囲んだ破線が不明瞭で見落としそうですが、ここが湿数=10になります。
相当温位のときと同じように同心円状に読み取っていきますが、気をつけたい領域が2箇所あります。
一つ目は、440hPaより上の湿数です。図の上端に湿数の極小値を意味する「W」が表示されているので、ここに向かって湿数の値は「7」「6」と小さくなっていきます。
二つ目は、960hPaより下層の湿数です。800hPaの破線から順に「3」「2」「1」と読んでいきますが、その下にまだ破線があります。湿数の最小値は0ですが、3Kごとに引かれる太線表示にはなっていません。ということは960hPaより下層の湿数は「1」または「2」のはずですが、ここは情報不足のため読むことができません。
問題の解答を考える
問題①を再掲します。
相当温位の最大値は326K(高度980hPa)としたいところですが、分布は地面に近いところほど相当温位が高くなっています。相当温位は等相当温位線の間を連続的に変化していることに注意してください。
相当温位の正確な値は読み取ることができませんが、地表すれすれ(高度990hPa)で最大値をとります(図6)。

同様に最小値についても、315K(高度690hPa、630hPa)ではなく、その内側では相当温位がさらに低くなっているので、高度は690hPaと630hPaの中間の660hPaとします(図7)。

以上から、内之浦の相当温位の図の範囲内の最大値は326K(高度990hPa)、最小値は315K(高度660hPa)となります。
相当温位の最大値は327Kでも良いように思います。
問題①の後半の湿数は、図5を使って990hPaと660hPaの湿数を読み取ります。問題文には「湿数を整数値で答えよ」とありますが、これは不親切でしょう。
990hPaにおける湿数は1より小さいのですが、湿数1℃の線より下層にある2本の等値線の値が不明です。また、660hPaにおける湿数は8℃と9℃の間にあります。
「2本の線に挟まれる場合は、大きい方の値を答えよ」という問題文であれば、迷うことなく解答できます。
高度990hPaにおける湿数は1℃、高度660hPaにおける湿数は9℃となります。
続いて、問題②を再掲します。
図8に相当温位の図と湿数の図を並べてみました。

湿数の分布を見ると、800hPaより下層では概ね6℃以下となっています。特に東経135°より東では3℃以下であり、雲が形成されるぐらいに湿っています。
この湿数の小さい領域が、相当温位321K以上の領域と重なっているということが解答できれば良いのではないでしょうか。
センターの解答例は、相当温位の極大域にほぼ対応して、湿数が相対的に小さくなっているです。
それにしても、「相当温位の極値と湿数との関係」という問題文はかなり抽象的で、何を求めているのか不明瞭です。問題①で細かい等値線の読み取りをやった後に、この問題に取り組むのは大変だと思います。
もう少しヒントや正解に誘導するような問題文であってほしいものです。
この問題の本質
ここまで力技を必要とするなかなか大変な問題でしたが、この問題はそもそも何を求めているのでしょうか。
そのヒントは問4(3)で出てくる図11の鹿児島の降水量の図にあります(図9)。左の図は降水量の予想で、右の図は解析雨量(実際の降水量を解析したもの)です。

内之浦(大隅半島の先端)では雨が予想されており、実際に猛烈な雨が解析されています。
大雨が降るときは強い風で下層暖湿気が流れ込むということは学んでいるでしょう。別の言い方をすれば、「相当温位の高い領域で湿数が小さくなっている」ことになります。
問題で与えられた図11を先に見ておいて、大雨が予想(解析)されている→下層暖湿気の流入のイメージがあれば、問題②が何を求めているかが分かったはずです。
出題者も当然そのイメージを持って問題を作成しているのです。
天気図を見るときはいきなり細かいところに着目せず、総観規模の場の解析から徐々にメソスケールに移行するよう心がけることが大切です。
【図の出典】
図1 気象庁天気図を本サイトで加工して作成
図2(左上) 味美測候所を本サイトで加工して作成
図3〜9 気象業務支援センターを本サイトで加工して作成
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実技の参考になっています。細やかで、分かりやすい解説ありがとうございます。
今後も拝見させてもらいます。無料で学べる、良いサイトと思います。
ご覧いただきありがとうございます。お役に立てば幸いです!