洪水の基礎知識

  • 知識

大雨が予想されるときには、「土砂災害、低い土地の浸水、河川の増水・氾濫に注意してください」と呼びかけられます。

今回はこの「河川の増水・氾濫」の理解を深めます。少し長くなりますが、最後までお付き合いください。

 

川の知識

川の水はどこから来る?

日本の国土の7割以上は山地です。山地に雨が降ると、雨水は低いところに集まり川となり、途中で特徴的な地形を刻みながら最後は海に注ぎます(一部の例外あり)。

このように、山に降った雨は地表を低い方へ流れて、川に流れ込みます。雨水が川に流れ込む範囲を、その川の「流域」と言います(図1)。

すなわち、川の水は流域に降った水が流れ込んだものです。

 

図1 流域のイメージ

 

 

同じ流域内にある本川、支川、派川およびこれらに関連する湖沼を総称して「水系」といいます。

本川は流量,長さ,流域の大きさなどが、もっとも重要と考えられる、あるいは最長の河川です。その本川に合流する河川を支川と言います。

荒川水系とか、淀川水系と言いますよね。荒川水系は128の支川から、淀川水系は965の支川からなります。

さて、話をちょっと流域に戻します。

流域と流域の境目を分水界と言います。よその流域で降った雨がこちらの流域に流れてくることはないので、分水界は異なる水系との境界ということになります。

ちなみに、山に行くと「分水嶺」というものがあります。これは山の尾根が分水界になったものです。

 

 

以上をまとめると、山に降った雨水は川に集まり、同じ水系に属する支川を流れる水は本川に集まります。雨水が集められる範囲を流域面積、あるいは単に流域と言います。

 

河川の管理

ここからは少し、法律っぽい話になります。気象予報士試験には出題されませんが、知識として頭に入れておくと役に立ちます。

河川による水害(洪水や高潮)を防ぐことを「治水」と言います。河川管理の目的は治水のほかに利水、環境整備があります。これらを実行するために、河川法では河川を分類し、河川ごとに管理者を定めています。

具体的には全ての水系を「一級」、「二級」、「単独(準用)」、「その他」に分類して、管理者を決めています。

ここでは一級水系について見てみます。

一級水系

国土の保全上や国民の経済上、特に重要な水系が「一級水系」です。

洪水や高潮などの災害が発生したときに大きな被害が想定されたり、生活や産業のための利用が地方経済に止まらず国家的に見て大きい場合が該当します。

一級水系の河川で国土交通大臣が定めたものが「一級河川」です。国土交通大臣が直接管理する「大臣管理区間」と、都道府県知事に管理が委任されている「指定区間」に分かれます(図2)。

(参考)管理組織の名称
大臣管理区間を管理する国の組織は「国土交通省○○地方整備局△△川河川事務所」、指定区間を管理する都道府県の組織は「○○県土木部河川管理課」のような名称です。なお、具体的な名称は組織により異なります。

 

一級水系は国土交通大臣が直接管理しますが、その中の主要な河川を2つに区分し、特に重要な幹川を「国土交通大臣管理区間」と呼びます。

大臣管理区間以外の河川は、一定規模以上の水利権などを除いて、通常の管理を都道府県知事に委任しています。この区間は、国土交通大臣が指定することによって決まるので、 「指定区間」と呼びます。

一般河川を構成する河川は、一級河川の他に準用河川と普通河川があります。

 

図2 河川管理者

 

川の構造

川の知識の最後に、整備された川の構成要素を学びましょう。後ほど、氾濫を学ぶ際に登場する用語を中心に説明します(図3)。

堤防:
洪水を氾濫させないために、川の両岸に築造した盛土(土を盛り固めた)のことです。

河道:
河川の流水が流れ下る部分。河道のうち常に水が流れる部分を「低水路」、高水時のみ流水する部分を「高水敷」と言います。低水路と高水敷を合わせたものが「河道」です。

河川敷:
高水敷と低水路を合わせたところを言います。

堤外地:
堤防に挟まれて水が流れている側のこと。

堤内地:
堤防によって洪水氾濫から守られている住居や農地のある側のこと。

図3 河川構造の名称

 

洪水・氾濫の知識

 

私の家のそばの川は雨が降るとすぐに増水し、雨が止むとすぐに水位が下がります。一方で、雨が降り始めてもすぐには増水せず、雨が止んだ頃に増水する川もあります。

このような違いはどこから生じるのでしょうか。

 

洪水のメカニズム

大雨が降ったときにどのような洪水が発生するかは、もともとその川が持っている特徴と、そのときの雨の降り方によります(図4)。

【川の特徴】

ある川で発生する洪水を特徴づける要素に、①流域面積、②川の幅、深さと流量、③川の傾き、の3つがあります。

①流域面積
降った雨水をかき集める面積が広いほど、本川を流れる水量は多くなります。

②川の幅、深さと流量
増加した水を受け入れるキャパシティです。流域面積が大きくても、このキャパシティも大きければ、その分だけ余力は大きくなります。ただし、一部で川の幅が狭いところがあると、そのようなところでは洪水リスクが高くなります。

③川の傾き
川の傾きが急なほど水位の上昇は早くなります。

 

図4 洪水を決める要素

 

 

【雨の降り方】

雨の振り方が弱いと、降った雨は時間をかけて地面に吸収されます。しかし、激しい雨が降ると、地表を流れる雨水が多くなり、河川の水位が短時間で上昇することがあります。

また、流域の広い範囲にわたって雨が降ると支川から本川に流れ込む水の量が多くなるため、本川の水位上昇は長い期間続くことになります。

 

洪水と氾濫

「洪水」「氾濫」。似たような言葉ですが、違いはあるのでしょうか。

河川管理は国土交通省の管轄ですが、増水の原因となる気象現象は気象庁の管轄です。それぞれの立場で定義がされているので、両方とも確認しておきましょう。

まず国土交通省の定義から見てみます。

台風や前線によって流域に大雨が降った場合、その水は河道に集まり、川を流れる水の量が急激に増大します。このような現象を洪水と呼びます。一般には川から水があふれ、氾濫することを洪水と呼びますが、河川管理上は氾濫を伴わなくても洪水と呼びます。

出典:国土交通省

 

国交省らしい専門用語が使われていますね。川の水量が急激に増大した現象が洪水だと言っています。

では、気象庁はどうでしょうか。

河川の水位や流量が異常に増大することにより、平常の河道から河川敷内に水があふれること、及び、堤防等から河川敷の外側に水があふれること。

出典:気象庁

 

こちらは、河川敷に水があふれることを洪水と定義しています。

国土交通省の定義の方が広義ですが、気象予報士としては、以下のような理解で良さそうです。

「洪水」は川の水量が急激に増大した状態を言い、そこから水があふれることを「氾濫する」と言う。ただし、水があふれて氾濫することを「洪水」と言うこともある。

 

(補足)

洪水と氾濫のような分かりにくい用語が存在することを国交省も認識しているようです。現在、防災用語の見直しが審議会で行われているので、その結論に期待しましょう。

 

内水氾濫と外水氾濫|2種類の氾濫

豪雨時に堤内地に雨水がたまって氾濫したときに、これを内水氾濫と呼び、氾濫した水のことを内水と呼びます。

内水って聞きなれない言葉ですが、先に学んだ堤外地と堤内地を思い出してください。堤防を境にして、川の水を「外水」、逆に民家などがある守られている側の水を「内水」と言います。

内水氾濫では、堤防から水があふれなくても、河川へ排水する川や下水路の排水能力の不足などが原因で、降った雨を排水処理できないと発生します。

一方、外水(=堤外地を流れる川の水)による氾濫を外水氾濫と呼びます。外水氾濫では、河川の堤防から水が溢れたり、堤防が決壊して家屋や田畑が浸水します。

 

図5 内水氾濫と外水氾濫

 

 

こちらの写真は外水氾濫の事例です。2019年台風19号で、栃木県の秋山川の堤防が決壊しました。

出典:NHK

 

(補足)内水氾濫

内水氾濫はイメージが湧きにくいので、説明を補足します。

気象庁では、内水氾濫を「湛水型の内水氾濫」「氾濫型の内水氾濫」に分けています。ここで、「湛水」とは水がたまることです。

湛水型とか氾濫型という名称を覚える必要はありませんが、仕組みの違いと対応する警報の違いをよく理解してください。

 

【湛水型の内水氾濫】

 

湛水型の内水氾濫は河川の増水によるものです。

河川の水位が高くなったため、河川周辺の雨水が排水できずに発生します。

湛水型の内水氾濫に対しては、洪水警報が発表されます。

 

 

【氾濫型の内水氾濫】

 

氾濫型の内水氾濫は河川の増水とは無関係に発生することがあります。

短時間強雨などにより雨水の排水能力が追いつかずに発生します。

氾濫型の内水氾濫に対して大雨警報(浸水害)が発表になります。洪水警報ではありませんので注意してください。

 

 

湛水型と内水型の比較を表にまとめました。

湛水型内水氾濫 氾濫型内水氾濫
現象 河川周辺の雨水が河川の水位が高くなったため排水できずに発生 短時間強雨などにより雨水の排水能力が追いつかずに発生
発生場所 堤防の高い河川の周辺に限定される 河川周辺地域とは異なる場所でも発生する
発生契機 河川の増水に起因する 河川の増水によらない
警報 洪水警報 大雨警報(浸水害)

 

事例|令和2年7月豪雨

流域の広い面積で雨が降り支川で洪水が発生すると、本川での洪水は規模が大きくなります。その事例を令和2年7月豪雨で発生した洪水で見てみます。

 

【警報時間の短かった例】

川内川(せんだいがわ)は、鹿児島県の川内平野を流れて薩摩灘に注ぐ、川内川水系(流域面積は約1,600km²)の本川です。一級河川で、洪水予報指定河川です。

川内川上流部では7月6日、10時45分から12時50分までの2時間5分間にわたり氾濫警戒情報が出されました。

図6の洪水警報の危険度分布(同日11時00分)を見ると、川内川上流部は赤色表示になっていますが、川内川の支川は青色表示です。すなわち、降水は流域全域ではなく川内川本川を中心であったこと、またその時間帯も限定的であったことから、氾濫警戒情報が短時間であったと推測されます。

図6 川内川の洪水警報危険度分布(7月6日11時00分)

 

【警報時間の長かった例】

次に見るのは熊本・人吉盆地を流れ八代市で不知火海に注ぐ球磨川です(流域面積は1,880km²)。球磨川は球磨川水系の本流であり、一級河川でかつ、洪水予報指定河川です。

7月4日に発生した洪水では、1日半にわたり氾濫発生情報が発表されました。その推移を追ってみましょう。

球磨川では7月4日の2時30分に氾濫注意情報が出されました。しかし、洪水の危険度分布を見ると、その時刻以前から周囲の支川では洪水が発生していたことが分かります(図7)。

その後、3時10分に氾濫警戒情報、3時55分に氾濫危険情報が出されました。4時30分の危険度分布によると、球磨川の左岸の支川では黄色表示が増え、早くも水位が下がり始めています(図8)。

 

5時55分には氾濫発生情報が発表になり、球磨川は黒色表示になりました(図9)。この状態は支川の水位が青色に戻っても継続しています(図10)。

すべての情報が一括して解除されたのは翌5日の17時45分になってからでした。

 

このように球磨川の氾濫発生情報が長期間にわたったのは、球磨川の流域面積の広い範囲で雨が降り、その水が球磨川に集まったためと想定されます。

この水害では多くの方が犠牲になりました。謹んでご冥福をお祈り申し上げます。

 

最後に

洪水による被害は近年、毎年のように発生しています。気象予報士試験でも防災関連の問題は重視されますので、しっかり学習してくださいね。

この記事が参考になったと思われる方は、一言でもコメントをいただけると嬉しいです。

 

参考文献:

「洪水はなぜ起こる?」(国土地理院)

「避難勧告等に関係する諸情報(洪水・浸水)の技術について」(気象庁予報部、平成30年3月4日)

 

 

1+

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

CAPTCHA