2026年出水期(5月下旬予定)から気象警報などの防災気象情報(注)の体系が大きく変更になります。これにより避難の判断がしやすくなることが期待されます。
注)防災気象情報
大雨や暴風等とそれにより引き起こされる災害への警戒を呼びかけるための注意報、警報、特別警報、土砂災害警戒情報、指定河川洪水予報等のこと(出典:首相官邸HP)
一方で、過去問題を使って学習に取り組んできた受験生にとっては混乱を招きやすい内容になっています。また、過去問題の一部は使えなくなり、参考書も改訂が必要になります。
今後の予報士試験の学習にどのような影響があるのか、受験生目線で考えてみます。
お断り
本記事は気象庁発表資料を独自に解釈したものであり、発表内容をそのまま転記したものではありません。完全な情報は気象庁のHPをご覧ください。なお、今後の情報開示や運用次第では記載内容が変更になることがあります。
警報などの見直しのポイント
新たな防災気象情報における警報などの見直しの主なポイントは次の通りです。
- 警報を「避難を促すもの」と「そうでないもの」に分類し、警戒レベルとの対応を明確にした
- 避難を促す情報は警戒レベルをつけた名称とした
- 避難を促す情報には「レベル4危険警報」を新設し、5段階の警戒レベルと対応させた
- 従来の情報で影響があるのは大雨警報、土砂災害警戒情報、洪水警報、高潮警報である
- 警報発表の基準として「リードタイム」を重視する
現在、土砂災害と水害の防災情報には5段階の警戒レベルが用いられています。
これは政府の中央防災会議が2018年に策定したもので、
- 警戒レベル3で危険な場所から高齢者などは避難(高齢者等避難)
- 警戒レベル4で危険な場所から全員避難(避難指示)
- 警戒レベル5で緊急安全確保
することを示します。
避難を促す情報
土砂災害や水害に関する防災気象情報は5段階の警戒レベルとの対応を明確にするため、その名称は漢字による情報名の前にレベル1〜レベル5の警戒レベルが付くことになりました(表1)。

表1ではスペースの都合で警戒レベルと情報名の漢字部分を2行にわたって記載していますが、両者を合わせたものが情報名です。
例えば、「レベル5大雨特別警報」は「レベル5」の「大雨特別警報」ではなく、「レベル5大雨特別警報」という一つの名称となります。
洪水警報
洪水警報は従来、河川(外水)に起因する外水氾濫や湛水型の内水氾濫が発生するおそれがあるときに、市町村(二次細分区域)ごとに発表されてきました。
新たな防災気象情報では、市町村ごとに発表されてきた洪水警報は廃止されます。情報の引き継ぎ先は河川の規模に応じて異なります。
これまで、指定河川ごとに発表されてきた指定河川洪水予報は「レベル3氾濫警報」と「レベル4氾濫危険警報」に移行します。それ以外の河川については、「レベル3大雨警報」と「レベル4大雨危険警報」に移行します。

大雨警報(浸水害)
「大雨警報(浸水害)」は新たに「レベル3大雨警報」と「レベル4大雨危険警報」となり、「大雨警報(浸水害)」は廃止されます。なお、大雨警報には洪水警報の一部(指定河川以外の洪水警報)も移行してきます。

浸水害とは「氾濫型の内水氾濫」のこと、洪水害とは「湛水型の内水氾濫」と「河川の外水氾濫」のことです。

「大雨警報」は平成22年(2010年)5月から、「大雨警報(浸水害)」「大雨警報(土砂災害)」「大雨警報(土砂災害、浸水害)」のように警戒すべき防災事項を表記してきました。しかし、多くの住民がこのことを理解していないこともあり、避難情報としての側面を強調して今回の変更になったようです。
大雨警報(土砂災害)
「大雨警報(土砂災害)」は「レベル3土砂災害警報」と「レベル4土砂災害危険警報」となり、「大雨警報(土砂災害)」は廃止されます。
「レベル4土砂災害危険警報」は、従来の「大雨警報(土砂災害)」の後に発表される「土砂災害警戒情報」の名称が変更されたものです。

従来、大雨警報(土砂災害)の基準は土壌雨量指数で定められ、2時間先までに警報基準に達すると予想される時点で発表されていました。
【大雨警報の基準例】
熊本県人吉市 195、 東京都千代田区 140
また、土砂災害警戒情報は土砂災害発生危険基準線(CL: Critical Line)で定められ、土壌雨量指数と60分雨量指数の状態をつないだスネークラインが2時間先までにCLを超過すると予想される時点で発表されていました。
「新たな防災気象情報」では「レベル4土砂災害危険警報」は、基準に到達する2時間前に発表、「レベル3土砂災害警報」は基準に到達する3時間前に発表されるようになります。

すなわち、「レベル3土砂災害警報」と「レベル4土砂災害危険警報」は時間的なリードタイム1時間の差しかないことになります。
このため、予想以上の雨が降ったときには、「レベル3土砂災害警報」を経ずに「レベル4土砂災害危険警報」が発表される事例が増えることが見込まれています。このような特性に注意が必要です。
高潮
「高潮警報」は「レベル3高潮警報」と「レベル4高潮危険警報」になります。名称の変更は小さいように見えますが、発表基準や対象が大きく変わります。
発表基準
従来の高潮警報は主に台風を念頭に、発表基準に潮位(吸い上げ効果、吹き寄せ効果)が使われてきました。
参考に、発達した低気圧により根室地方に高潮警報が発表されたときの状況を示します(図6)。

新たな防災気象情報では、レベル4高潮危険警報の基準として「その基準を超えると浸水被害のおそれがある状況となる高さ」が設定されます。これが現在の潮位基準と異なるものになるのか、現時点では不明です。
また、新たに「高潮予報海岸」に指定された海岸については、「波の打上げ高」を考慮した水位基準が加わり、レベル4高潮危険警報と合わせた二つの発表基準が設定される予定です。ここで、「波の打上げ高」とは海岸地形や施設を考慮したもので、今後設定される予定です。
発表タイミング
新たな防災気象情報では、高潮に関する情報はリードタイムの考え方が全面的に採用されます。
レベル4高潮危険警報:浸水被害のおそれがある状況の約6時間前までに発表されます
レベル3高潮警報:浸水被害のおそれがある状況となる約12時間前までに発表されます
レベル2高潮注意報:浸水被害のおそれがある状況となる約18時間前までに発表されます
前述のとおり、「浸水被害のおそれがある状況」が何を指すのか、現時点では不明です。
その他の警報
表1以外の警報・注意報については変更はなく、名称に「レベル」が付くこともありません。

今後の出題への影響
新しい施策や技術が導入されると、数年後には気象予報士試験に反映されます。
例えば、大雨による災害発生の危険度の高まりを地図上で確認できる危険度分布は2021年3月に「キキクル」の愛称が公表されましたが、第59回試験(2023年1月実施)に出題されています。
また、平成29年(2017年)の出水期から使用開始となった表面雨量指数は、第53回試験(2020年1月実施)に出題されています。
こうした過去の事例に倣うと、2026年出水期から始まる新たな防災気象情報に基づいた問題の出題は2028年度以降になりそうです。しかし、警報の見直しという重大さからすると、2027年夏実施の第68回試験には準備をしておきたいところです。
2026年の夏から秋にかけて、大雨に伴う各種警報がどのように発表されるのか、記録して整理しておくことをお勧めします。
過去問題を利用する際の注意点
「新たな防災気象情報」の影響を受けそうな問題を第50回以降で調べてみたところ、次の3通りに分類できます。
①予想される災害名を問うもの(52-1-2、55-2-4、64-1-3、65-1-7)
災害名として「洪水害」、「浸水害」を答えさせる問題です。
②土砂災害に関するもの(59-1-4、62-1-5)
土砂災害を対象に発表される防災気象情報を答えさせる問題です。
③大雨警報(浸水害)に関するもの(53-1-3)
表面雨量指数を算出し、大雨警報(浸水害)に関する危険度分布基準を答えさせる問題です。
この中で②と③の出題は「新たな防災気象情報」の開始後、明らかに陳腐化するため、試験対策としては利用しないことが望ましいでしょう。
①については、「洪水害」「浸水害」という災害名がこれまで通り使われるのか、また雨量指数との対応がどうなるのか現時点では不明なところがあります。今後の展開に留意しながら利用してください。
参考書への影響
最後に、今回の見直しが参考書に与える影響を確認しておきます。
実技の参考書は高潮の解説や、過去問題演習の解説で影響を受けるため、改訂が必要になります。さらに「学科・専門」の参考書は警報や注意報の解説をしているので、やはり改訂が必要になります。
新たに参考書を購入する方は、改訂日が令和8年(2026年)6月以降であることを確認の上購入してください。すでに参考書をお持ちの方は本記事の内容を参考にして、該当箇所は参考書ではなく気象庁特設サイトの資料を参照して学習してください。
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【お断り】
気象庁は防災気象情報の対象として気象警報・注意報、土砂災害警戒情報、指定河川洪水予報、キキクル、気象情報、記録的短時間大雨情報、解析雨量、台風情報などを例示していますが、本稿ではこの中から関連するものだけを取り上げています。
また、原稿作成にあたっては入手可能な資料や専門家向け講習会などをもとにしていますが、現時点で未公表のものも含めて不正確な記述が含まれる可能性がありますのでご承知ください。
