記述式では、「相当温位と風の分布を述べよ」という問題がよく出題されます。
このような問いには、天気図から風向を読み取って書きとればそれで良いのでしょうか。そもそも出題の狙いはどこにあるのでしょうか。
顕著現象の発生には、水蒸気の供給と上昇流が欠かせない
顕著現象が発生する要因には水蒸気、上昇流、鉛直シアーなどがありますが、中でも上昇流と水蒸気の存在は欠かせません。
水蒸気は雨の素であり、乾燥した空気が上昇しても凝結による雨は降りません。また、どんなに空気が湿っていても、上昇流がなければ水蒸気は地上にとどまるだけです。
したがって、水蒸気と上昇流は雨が降るための2大要件と言っても良いでしょう。あとは大気の安定度や鉛直シアーの存在によって、対流性や持続性の性格を帯びてきます。
では、水蒸気の量と上昇流の存在をどうやったら知ることができるのでしょうか。実際に見てみましょう。
事例:高知県清水の大雨
2024年6月9日、高知県清水で1日の降水量としては6月の過去最高となる340.5mmの雨が降りました。清水は足摺岬の土佐清水のことです。
図1に9時の降水エコー、図2に1時間ごとの降水量を示します。
水蒸気の量は850hPaの相当温位で判断します。相当温位が高い空気は高温・多湿であることを意味します。
また、上昇流は700hPaの鉛直流で負の極値を見て判断します。
では、この日の850hPaの相当温位・風(図3)と700hPaの鉛直流と850hPaの気温・風(図4)の12時間予想図を見てみましょう。
図3によると、清水の南に342Kの湿潤な空気が35ktの風で吹き込んでいます。北側に盛り上がった相当温位線の先端部に吹き込んでいて、周囲と比べてここが相対的に湿潤であることが分かります。
図3を使って風の状態も見ておきます。35ktの南南西の風の北側では30ktの南南東の風が吹いているので、風向と風速のいずれも収束しています。
風が収束すると上昇流が発生します。図4を見ると、ちょうど足摺岬付近で82hPa/hの上昇流が計算されていることからも確認することができます。
なお、風が収束すると上昇流が発生することは「連続の式」から言えることです。風と風がぶつかると行き場がなくなり上昇する、と覚えておくと良いでしょう。
過去問題
では、相当温位と風の分布についての出題を見ておきたいと思います。
第61回実技2問1
問題文の該当箇所をそのまま引用します。
図5(上)、図4、図5(下右)を順に見ていきます。
図5(上):6日9時の西日本の強い降水予想
図5(上)は、6日9時の地上気圧・降水量・風の12時間予想図です。
降水量は前12時間の予想値ですから、5日21時〜6時9時までの積算値になります。
○で囲まれた付近の前12時間の降水予想量は、九州で76mm、四国で87mmとなっています。
87mm/12hの降水量は平均すると1時間あたり7.25mmとなりますが、仮に87mmが1時間に集中的に降るとしたら「猛烈な雨」になります。
ここで、雨が降るための2大要件は水蒸気と上昇流であることを思い出しましょう。水蒸気の量は850hPaの相当温位で予想できます。また、上昇流の存在は700hPaの鉛直流か、地上の風または850hPaの風の収束で予想することができます。
図4、図5(下右):850hPa相当温位・風の分布
続いて850hPaの相当温位と風の分布の予想図を確認します。前の図で見た12時間降水予想の時間帯は5日21時〜6時9時でした。
それに対応して、図4は5日21時の予想図、図5(下右)は6日9時の予想図になります。
×付近の相当温位と風の分布は次のようになっています。
5日21時:
九州北部では相当温位348Kの先端部で、45ktの南西風とその北側の10ktの南風が収束
6日9時:
中国地方では相当温位348Kの先端部で、35ktの南南西風とその北側の15ktの南南西風が収束
解答
以上から、「5日21時と6日9時の風の分布の共通する特徴を、相当温位の分布との位置関係」に対する解答を作成します。
等相当温位線が集中する高い相当温位の先端部で風が収束している。(31字)
センター解答例:
東北東にのびる高相当温位域の先端付近で風が収束している。
実際の降水
2020年7月5日、鹿児島県川内市では24時までの3時間で72mmの雨が降り、6日の0時から9時までの9時間で64.5mmの雨が降りました。
また、広島県の三入では5日の24時までに23mm、6日の9時までに63mmの雨が降りました。
GSMの12時間予想は、大雨が降るという注意を促す役割を果たしていたと言えるのではないでしょうか。
さいごに
第61回実技2問1は、強い降水が予想される領域における風と相当温位の分布を問う問題でした。
類似問題として、「強いエコー領域における風と相当温位の分布」や、「対流雲が発生している領域における風と相当温位の分布」があります。
大事なことは、水蒸気と風の収束が大雨の2大要件であるということです(実際に大雨になるかは、大気の状態や上層の気圧の谷の存在が関わってきます)。
今回の事例を通して、応用力を身につけていただきたいと思います。
【図の出典】
第61回実技2の出題 気象業務支援センターを本サイトで加工して作成
その他は、気象庁天気図を本サイトで加工して作成
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