500hPaトラフ解析はほぼ毎回の試験で出題されますが、出回っている解析事例が少ない上に参考書などを見ても解析の考え方を詳細に解説したものがありません。
今回は過去の出題事例から代表的なものをピックアップし、私なりの考え方をまとめることにしました。
まず、トラフを探すときの基本をまとめます。
トラフ解析の基本
⓪探す領域を決める
500hPa天気図には大小さまざまな波動が現れています。日常の天気図解析では地上じょう乱(低気圧)に対応するトラフを探します。
試験では、特定のトラフの移動先を追跡して解析させる問題がよく出題されます。対応する地上じょう乱がないことも多いため、追跡するトラフがおおよそどの領域にあるのか「あたり」をつけることが大切です。
トラフが概ね水平方向に移動する場合、その速さは経度10〜20°を目安にすると良いでしょう。ただし、寒冷渦回りのトラフは南下するのでこれには該当しません。
そのほかに正渦度域の形状、強風軸が2本あればその合流点の移動先、正渦度域と負渦度域の分布状況などから、おおよその移動先の領域を定めます。
①気圧の谷を通す
トラフの定義は「上空の気圧の谷」なので、まずは気圧の谷を探すことから始めます。上空の気圧の谷とは、等高度線が低い方から高い方に向かって張り出しているところです。
気圧の谷と言っても、分かりやすい深いものだけではありません。周囲からわずかに突出しただけのもの、あるいは等高度線全体が緩やかな曲線を描いて定めにくいもの(浅いトラフ)まで、大小さまざまです。
トラフの気圧の谷にはバリエーションがあるという認識が足りないと、「気圧の谷なんかどこにもない!」ということになります。
地上天気図の気圧の谷のような明瞭なものをイメージすると見落とすことがあるので、気をつけて探します。
②正渦度極大を意識する
気圧の谷は低気圧性循環であり、トラフ近傍には正渦度極大があります。浅くて見つけにくいときでも、正渦度極大はトラフを見つけるときの目印になります。
試験に出題されるトラフは正渦度極大を通すものが大半ですが、トラフが正渦度極大を通るとは限りません。シアによる渦度が大きい場合、正渦度極大は気圧の谷から外れることもあります。
したがって、正渦度極大を通すと「①気圧の谷を通す」と矛盾する場合は、気圧の谷を通すことを優先します。無理に正渦度極大を通すことはないでしょう。
③強風軸に対応させる
試験に出題されるトラフは強風軸に対応するものが多いので、解析するトラフに対応する強風軸がどれかを意識します。
また、強風軸をまたがって負渦度域までのばすことはしません。ただし、正渦度域の中に入れ子で現れる小さな負渦度域は通しても問題ないようです。
では、以上のポイントに従って、過去問題の事例を見ていきましょう。
(凡例)49-1-3(1):第49回実技1 問3(1)
図の出典:図1~6は気象庁天気図を加工して作成
①気圧の谷を通す
トラフは気圧の谷ですから、周囲より気圧(=高度)が低くなっています。少しでも低緯度側に出っ張っているところを見つけて、そこを通します。
49-1-3(1)
気圧の谷は深いので、見つけやすいと思います。

5100〜5160mの間にある正渦度極大「+226」を通したいところですが、この事例は問題文で与えられたものなので通さなかった理由は不明です。
57-2-2(2)①
こちらも気圧の谷が見つけやすい事例でしょう。

図3のトラフは「+246」「+223」の正渦度極大を意識しつつ、5160〜5400mの気圧の谷(青色の破線内)を通して描いています。
強風軸を5340m付近と見て、このあたりで留めても良いかもしれません。
5280mの「+185」の正渦度極大まで通すのは、気圧の谷の形状と黒い破線で示されている正渦度域の形状から判断すると無理でしょう。
62-1-2(1)
次はトラフの傾きをどうするか、悩みそうな事例です。

正渦度極大「+182」を通します。気圧の谷は浅く微妙ですが、曲率が最も小さい付近を通しています。
トラフの傾きですが、「トラフは北東から南西に傾いている事例が多い」と思い込んでいると、図3のようには解析できません。
5520mと5580mの等高度線が平行になっている本事例では、等高度線の接線に垂直に引くとこのような負の傾きになります。
図7の「浅い気圧の谷の探し方」も参考にしてください。
58-2-2(1)②
小さな気圧の谷を通す事例です。

5160mの正渦度極大「+249」から気圧の谷を通して、強風軸の5400mないしは5460mまでのばしています。
5280、5340、5400mの気圧の谷は周囲よりわずかに出っ張っているので、取りこぼしのないように拾っていきます。
なお、5280m付近の正渦度極大「+271」を通したいところですが、気圧の谷から外れるので無理には通しませんでした。
②正渦度極大を意識する
56-2-2(1)
図4のように、正渦度極大の近くを通す事例です。

明瞭な気圧の谷を見つけづらい例です。このようなケースでは、後述するように接線を使って探すと良さそうです。
それらしい気圧の谷を通すと、わずかに正渦度極大「+136」から外れます。
実際の出題内容は、「トラフと5760mの等高度線の交点の経度を求めよ」というものです。本番で自信を持って解答するのは難しい問題です。
③強風軸に対応させる
ここまでの事例でも強風軸に対応するトラフを解析してきましたが、ダメ押しでもう一例。
48-1-2(3)①

5400mの正渦度極大「+226」を通し、5460mの強風軸まで解析します(勢いで少しはみ出ました)。
この事例のように等高度線の曲率が大きく全体がたるんでいるとき、気圧の谷はどうやって探せば良いでしょうか。一つの考えを示したいと思います。

図7に示すように、気圧の谷と思われる部分を挟むように両側から接線を引き、それを内側に寄せるように繰り返していき、ついに1本の接線になったときの接点を気圧の谷とするものです。
さいごに
トラフ解析の考え方をまとめてみました。あくまで自己流なのでこれが正解とは限りません。参考にしていただき、ご自身で納得のいく部分を採用されれば良いと思います。
気圧の谷を見つけるには目を慣らすことが欠かせません。図1〜図7で用いた事例の天気図(トラフを書いていないもの)を下記からダウンロードして、ぜひ何度も練習していただきたいと思います。
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浅い気圧の谷の見つけ方は独特ですが、理にかなっているように感じました。毎回必見問題なので、早く知りたかったです!
参考にしていただければ幸いです。
早く試験をクリアして、楽しい気象の世界を味わってください!