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降水域予想を使った前線解析

前線解析というと、どうしても850hPa天気図の等温線や等相当温位線の集中帯の南端に引くという固定観念が試験勉強で身についてしまっています。

もちろんそれは正しいやり方なのですが、「極東地上気圧・風・降水量の予想図(FXFE502, 504, 507)」の降水域を使って前線を書くこともできます。

今回はFXFE502, 504, 507を使った前線の解析法を見ていきたいと思います。

(お断り)すべての天気図の出典は気象庁ホームページで、図1, 3, 5,  6, 9, 10, 11は気象庁天気図を加工したものです。

 

事例1 低気圧からのびる前線の解析

低気圧からのびる前線は気圧の谷を通すことで書くことができますが、FXFEの降水域予想を用いることで前線をどこまでのばすかを判断することができます。

極東地上気圧・風・降水量の予想図には降水量の12時間積算予測が10mmごとに等値線(点線)で書かれています。降水域内の極大域を結ぶと、おおよその前線を書くことができます。

24時間予想

初期時刻2022年11月12日12UTCの24時間予想図を使って、前線を解析してみました(図1)。緑色の線は降水量が0mmの等値線で、その内側の降水域を薄い緑色で示しました。

天気図によっては0mmの境界線が入り組んでいて識別しづらいこともありますが、あまり神経質にならずにざっくりと囲んでみましょう。

図1 極東地上気圧・風・降水量の24時間予想図(FXFE502)の降水域を使った前線解析

 

寒冷前線(水色の点線)の北側に+39mmや+58mmという極大域があるのですが、この事例では明瞭な気圧の谷があるのでそちらを通してみました。

24時間予想図(図2)と比べてまずまずの出来栄えです。

図2 24時間予想天気図

 

48時間予想

次に同じ初期時刻の48時間予想図を使って、48時間後の前線を解析してみました(図3)。降水域の形状から、前線は閉塞することが予想されます。

図3 極東地上気圧・風・降水量の48時間予想図(FXFE504)の降水域を使った前線解析

 

こちらには+48mm、+40mmという大きな降水量がありこちらを通したいところですが、24時間予想図と同じように気圧の谷を優先して通しました。

しかし、FXFE504の降水域予想では閉塞点の位置が分からないので、48時間予想図と比べると閉塞点がずれてしまいました(図4)。

図4 48時間予想天気図

 

明瞭な気圧の谷があればそこを通すことを優先し、降水予想域は前線を引く範囲を決める際の参考にすると解析の精度が上がりそうです。

 

事例2 停滞前線の解析

続いて低気圧の発生が予想されていない、停滞前線の場合を見てみましょう。

初期時刻2022年2月2日00UTCの24時間予想図を使って、前線解析をしてみます。

まず、「極東700hPa湿数、500hPa気温24時間予想図」(FXFE5782)を使って、700hPaの湿りがどうなっているかを確認します。

華中から日本の南にかけて帯状の湿潤域(T-Td<3の領域)がのびています(図5)。

図5 極東700hPa湿数、500hPa気温24時間予想図(FXFE5782)

 

このように南西諸島付近に東西方向の湿潤域が広がるのは、500hPaの強風軸に対応する前線が存在することが考えられます(これは天気図を見続けていると分かってきます)。

続いて地上気圧・風・降水量24時間予想図(FXFE502)を見てみましょう。700hPaの湿潤域に対応する降水域が華中から東シナ海にかけて予想されているので、これに対応する前線を解析します(図6)。

図6 極東地上気圧・風・降水量の24時間予想図(FXFE502)の降水域を使った前線解析

 

予想される前線(紫色の点線)は+27mmと+38mmの降水極大域を通すように引きました。

24時間予想天気図(図7)と比べると、解析した前線(図6)よりも500km程度南側に解析されています。

図7 24時間予想天気図

 

停滞前線は温度傾度が小さくて解析することが難しいことがあるので、地上天気図の前線からずれることはあっても降水予想域を使った前線解析は有益だと思います。

 

事例3 大雨をもたらした停滞前線の解析

2022年8月1日から6日にかけて日本海に停滞した前線は、青森県から福井県にかけて日本海側を中心に大きな被害をもたらしました。

ここでは初期時刻2022年7月31日00UTCの予想図を使って、8月1日00UTCの停滞前線を解析してみます。

最初に、前日(7月31日)12UTCの地上天気図を確認してみます。千島の東の低気圧は前線を伴い東に遠ざかり、北海道は気圧の谷の中にあります(図8)。

図8 前日(7月31日)の地上天気図

 

関東の南東には太平洋高気圧、黄海には台風があり、いずれも日本海に下層暖湿気を送り込んでいます。一方、オホーツク海の高気圧から相対的に寒気が流れ込む状況になっています。この暖気と寒気の境目に何らかの現象が発生する可能性があります。

続いて、「極東700hPa湿数、500hPa気温24時間予想図」(FXFE5782)を確認します(図9)。

図9 極東700hPa湿数、500hPa気温24時間予想図(FXFE5782)

 

黄海から日本海北部を経て三陸沖に湿潤域(T-Td<3)がのびています。なお、東シナ海を南北にのびる湿潤域は寒気と暖気の境界の現象には直接関係ないので、ここでは無視します。

「極東850hPa気温、風、700hPa鉛直流24時間予想図」(FXFE5782)で850hPaの等温線を見ると、該当する領域に顕著な温度傾度は見当たりません(図10)。18℃線と15℃線(赤色で表示)の間隔が広くなっています。

図10 極東850hPa気温、風、700hPa鉛直流24時間予想図

 

10mm以上の降水予想域(図11の緑色枠内)は700hPaの湿潤域に対応し、ここで停滞前線が顕在化することを示唆しています。そこで、降水極大域を通して前線を解析しました(紫色の点線)。

図11 極東地上気圧・風・降水量の24時間予想図(FXFE502)の降水域を使った前線解析

 

前日(7月31日)の24時間予想天気図には日本海の停滞前線は解析されていなかったので、当日(8月1日)00UTCの実況図と比べてみます。

図12 当日(8月1日)の地上天気図

 

図11で解析した停滞前線は実況図(図12)とかなり一致しています。

 

最後に

「極東地上気圧・風・降水量の予想図(FXFE502, 504, 507)」の降水域を使った前線解析をまとめました。

温度傾度が不明瞭な停滞前線ではかなり有効な手法ですが、それ以外の場合でも等温線や気圧の谷の状況と組み合わせて使うことで精度を高めることができそうです。

 

 

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