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気圧の谷

天気概況にしばしば、「気圧の谷の影響を受ける」「気圧の谷が通過する」という表現が登場します。気圧の谷の見つけ方と、気圧の谷ではなぜ天気が崩れるのかを見てみましょう。

気圧の谷の種類

気圧の谷は大別して、次の3通りがあると考えられます。

地上の気圧の谷

地上の気圧の谷は2つのパターンが存在します(図1の赤枠部分)。

図1 地上の気圧の谷

気圧の低いほうから高いほうに等圧線が張り出しているパターンは、寒冷前線が通過する等圧線のくびれでもおなじみでしょう(図1(a))。気圧の高いほうから張り出す「気圧の尾根」の逆パターンです。

高気圧の鞍部のパターンは、注意深く見ないと見落としてしまいそうな気圧の谷です(図1(b))。鞍部(あんぶ)というのはピークとピークの間の谷間のことで、地形図を見る方にはおなじみでしょう。大きな目で見ると帯状の高気圧の中にあっても、このようなところは相対的には気圧が低くなっています。

規模の小さいものは等圧線が4hPaごとに描画されるASASやSPASでは表現されず、2hPaごとあるいは1hPaごとに描画されるGSMや局地天気図でないと見つからない場合もあります。

気圧の谷では風が収束し、天気は曇りや雨になる傾向があります。

 

上空の気圧の谷

500hPa天気図に表現された気圧の谷で、いわゆるトラフのことです。等高度線が高度の低いほうから高いほうに向かって凸状に出っ張ったところを指します。

寒気を伴うことが多く、下層の暖湿気の流入の程度によっては大気不安定をもたらします。また、地上のシアーラインが顕著になることもあります

図2は上空の気圧の谷の例です。当日の天気概況には「北海道付近は、1日は気圧の谷の中となり、上空には寒気が流入する」(札幌管区気象台)とありましたが、地上天気図ではそれらしい形跡は見つかりません(図2(a))。

図2 上空の気圧の谷

一方、500hPa天気図では北日本の5280〜5460mに−36℃以下の寒気を伴う深いトラフがあります。このように、上空の気圧の谷(トラフ)は寒気を伴うことが多いのが特徴です。

 

地上の気圧の谷+上空の気圧の谷

地上の低気圧が発達するパターンで、気象予報士試験を受験する方にはおなじみです。

 

気圧の谷の実例

地上の気圧の谷①

気圧の谷では空気が流れ込むことで、地上シアーラインが形成されることがあります。2022年3月27日の例で見てみましょう。

前日、日本の南岸に沿って進んだ前線を伴う低気圧は三陸沖の東海上に抜けました。日本付近は次第に高気圧に覆われましたが、関東付近には気圧の谷が残りました。

27日朝9時の時点の状況を確認しましょう。地上天気図によると、関東から東海にかけて気圧の谷があります(図3(a))。

同時刻の推計気象分布では、この時点では房総半島や伊豆半島では曇っている所がありますが、晴れている所が多いのが分かります(図3(b))。

アメダスの風向・風速を見ると、茨城から千葉の太平洋側では北よりの風が卓越しています(図3(c))。

図3 朝9時の状況

午後に入ると寒気を伴う上空の気圧の谷が日本海を東進するのに伴い、関東の上空の気温が下がり深夜にかけて降水の領域が広がりました。

15時の状況を見てみましょう。地上天気図には気圧の谷がしぶとく残っています(図4(a))。海上の風の流れを見ると(図4(b))、相模湾から関東沖にかけて北よりの風と西よりの風によるシアーラインが形成されています。さらにアメダスの風向・風速によると、茨城から千葉の太平洋側では海からの湿った東風が卓越しています(図4(c))。

図4 15時の状況(1)

同時刻の推計気象分布を見ると(図5(a))、関東から東海の沿岸沿いで雲が広がったことが分かります。衛星の可視画像でも同じ領域で雲の広がりを確認することができます(図5(b))。

図5 15時の状況(2)

このように地上の気圧の谷があるところにシアーラインが形成され、そこに上空の寒気と海から湿った空気が入ることで雲が広がったものと思われます。

 

地上の気圧の谷②

2022年4月3日から4日にかけて、日本列島が帯状の高気圧に覆われたときの状況を見てみましょう(図6)。

天気図を見ると黄海と日本の東に高気圧があり、全国的に天気は良さそうに思われます。しかし、推計気象分布を見ると分かるように、3日(図6(a))と4日(図6(b))の2日間にわたって、東海から東北にかけて雨や雪になりました。

図6 地上天気図と推計気象分布

図7に4月3日9時の天気図(再掲)と、地上風の流線を示します。

図7 地上天気図、風の流線

日本の東の高気圧と黄海の高気圧の間は相対的に気圧が低く、気圧の谷になっています。紀伊半島の沖合では等圧線が気圧の低い方に凹み、気圧の谷が描かれています(図7(a))。

高気圧の周りでは時計回りの風が吹き出すので、東よりの風と北よりの風がぶつかりシアーラインが形成されて雨雲ができたことが推測されます(図7(b)。

 

上空の気圧の谷

2020年5月1日の事例です。

天気概況では「1日は気圧の谷が東北地方を通過する」(青森気象台)とありますが、地上天気図(図8(a))を見てもそれらしい気配はありません。

図8 気圧の谷が通過する

上空はどんな状況でしょうか。500hPa天気図を見ると、5520〜5640mに−21℃の寒気を伴う上空の気圧の谷(トラフ)があります(図8(b))。

トラフ前面は上昇流域ですが、東北の湿数は3より大きく天気が大きく崩れることはなかったようです。

しかし、500hPaで−21℃の寒気(平年より2℃以上低い)が流入し、大気の状態が不安定になったと思われます。

図9 5月1日朝の状況

道北から南東方向にシアーラインがのび暖湿気が流入した結果、北海道と東北では明け方まで雨が降りました(図9)。

 

気圧の谷に関する表現

気圧の谷に関する表現を、過去の天気概況から拾ってみました。

気圧の谷が通過する
気圧の谷が日本の上空を通過することです。

気圧の谷が進む
気圧の谷が移動していることを表します。

気圧の谷となる
1日を通して気圧の谷の影響下にあることを表します。
「気圧の谷となる」という表現は、当該地域が気圧の谷となっている状態を表す場合に使用するので、「気圧の谷が通過する」とは区別されます。

 

さいごに

長い解説を最後までお読みいただき、ありがとうございました。

予報士を取得して4年が経ち、やっと気圧の谷についてまとめることができてホッとしています。

試験だけでなく、日々の気象解析でもお役に立つとうれしく思います。

(出典)
図2, 3, 4(a), 4(c), 5, 6, 7(a), 8, 9(a) 気象庁を加工して作成
図4(b), 7(b) https://earth.nullschool.net
図9(b) 日本気象協会tenki.jp 

 

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