記述式では「気温分布の特徴を述べよ」のような問題が頻繁に出題されています。このような問題を「気象要素の分布」問題と命名して、その傾向と対策を考えていきます。
(注)文中で過去問題を引用する場合、出題回と問題番号を次のように省略して表記します。
「53-1-3(4)」(第53回 実技1 問3(4)を表します)
※本記事は「記述対策:分布の特徴問題」(2021.6.25公開)を全面書き換えしたものです。
傾向
気象要素の分布とは何か
気象要素
気象要素とは「ある地点のある時刻の天気の特性を表す要素のこと」(出典:天気予報用語集)です。
これまでの試験では温度・気温、雲・雲域、700hPaの鉛直流、相当温位、風・風速・風向、気圧、湿数などが出題されています(詳細は表を参照)。
気象要素の分布
何らかの気象現象が発生するとき、気象要素には特徴的な変化が現れます。この変化は特定の現象にはだいたい決まったもので、その規模や程度に応じて現象の激しさが変わります。
例えば、発達する低気圧の進行方向前面では暖気移流と上昇流が強まり、逆に後面では寒気移流と下降流が強まります。
これを気象要素で見ると、暖気移流は等温線の北側への盛り上がりと風が等温線に直角に近い角度で強く吹き付けること、上昇流は700hPa面の上昇流域として観察されます。
このように気象要素の分布の特徴を一つでも多く観察することは、発生している現象を判断する材料が増えることになります。
出題の概要
出題の背景
等温線が集中しているところに南風が強く吹きつければ、暖気が移流します。これが低気圧の発達や、大気不安定につながることがあります。
このように、等温線や風のような気象要素がどのような特徴を示しているかを読み取ることは、気象解析における大事なプロセスです。
気象要素の分布問題が数多く出題されている背景には、こうした実況解析の基礎能力が備わっていることを確認する狙いがあると思われます。
出題の形式
出題は「風の分布」「相当温位の分布」のように単一の気象要素の分布を問う問題と、「風と気温の分布」のように複数の気象要素を絡めて問う問題があります。
日本海の低気圧付近の700hPaの鉛直流分布について、前線付近の特徴および本州付近の地形による特徴を、45字程度で述べよ。(53-1-3(4))
(解)前線付近および山地の南〜南西斜面では上昇流域、山地の北〜北東側では下降流域になっている。
この低気圧に伴う850hPa面の温度移流及び700hPa面の鉛直流の分布の特徴を35字程度で述べよ。(52-2-2(1)①(b))
(解)低気圧の進行前面に暖気移流と上昇流、後面に寒気移流と下降流がみられる。
例1が単一の気象要素(700hPaの鉛直流)、例2が複数の気象要素(温度移流と鉛直移流)の特徴を問う出題です。
出題の大半は気象要素の「分布の特徴」をたずねる問題ですが、異なる時刻における「分布の違い」や「分布の変化」を問う出題もされています。
6 日19 時と7 日8時の千葉県における気温分布の違いを30 字程度で述べよ。(47-1-4(1)②)
(解)南北の気温差が明瞭であったが、ほぼ同じ気温となっている。
24 時間後から48 時間後にかけての台風(または低気圧)中心付近の500 hPa 気温分布の変化の特徴を25 字程度で述べよ。(46-1-5(4))
(解)中心の暖気核が崩れ、南西側の高温域と連なっている。
これから分かるように、「分布の違い」「分布の変化」をたずねる問題は単一の気象要素の分布問題の応用になっています。
文字数と配点
解答の文字数は15〜60文字の範囲で、45文字前後の設問が多くなっています。文字数の多い問題では、気象要素の分布する領域を表現するのに文字数が多くなっています。
気象要素の分布問題の配点は4〜9点(公表分のみ)です。次項「出題の統計」でも述べますが、試験では毎回、実技1と2を合わせて5問前後出題されているので大きな得点源になります。
難易度
難易度は比較的高いと言えます。参考書などでは「見たとおりに書けば良い」と解説されていますが、着眼点に気がつかないと歯が立たない恐れがあります。
なお、前の問題が解けないと気象要素の分布問題も解けないというように、前の設問と明確に連動することはありません。しかし、前の問題の解答にヒントが隠されていることがあります。
出題の統計
出題頻度
気象要素の分布問題は毎回(実技1、実技2合わせて)、コンスタントに5問前後が出題されています(図1)。
各回における記述問題の出題数は20問前後ですから、気象要素の分布問題だけで20%程度を占めることになります。ここで確実に点数を稼ぐことが欠かせません。
出題された気象要素
過去に出題された気象要素別の出題回数を、単一の気象要素(図2)と複数の気象要素(図3)に示します。
出題される気象要素にはある程度の偏りがあることが分かります。
最頻出(6回以上):温度・気温、雲・雲域、700hPaの鉛直流
頻出(3〜5回):相当温位、風・風速・風向
これら頻出の気象要素については、しっかりと対策をうっておきましょう。
対策の概要
【対策1】 解答文の構成を理解する
気象要素の分布の特徴は、基本的に「どこで」(領域)、「何が」(キーワード)、「どのような状況か」(状態)の3要素で表現します。
例えば、「中心部(領域)の相当温位(キーワード)が最も高い(状態)」という具合です。
解答文の構成には一定のパターンがあるので、この3つの要素を漏らさず盛り込むようにします。
以下の説明では、「キーワード」とその「状態」を合わせて「着眼点」と呼ぶことにします。
【対策2】 気象要素別の着眼点を整理する
解答にあたっては問題で提示された気象要素に対して、その状況にふさわしい着眼点(キーワード)は何かを考えます。
着眼点は、気象要素そのものとは限りません。特に温度・気温についてはキーワードが複数存在するので、難易度が高くなります。
過去問題から気象要素別の着眼点を整理しておくことで、選択肢の絞り込みが容易になります。
対策の詳細
対策1 解答文の構成を理解する
頻出の文型には、領域と着眼点が1つの場合と、2つが並列する場合があります。以下にそれを示します。
<領域>では<気象要素のキーワード>が<状態>である
パターン1の例を示します。
<領域1>では<キーワード1>が<状態1>で、<領域2>では<キーワード2>が<状態2>である
パターン2の例を示します。
(例6)
前線付近とその南側に上昇流、北側に下降流が広がっている。(48-2-1(3)②)
対策2 気象要素別の着眼点を整理する
よく出題される気象要素について、その特徴と、狙われやすい着眼点をまとめました。また、第42回以降の出題から領域と着眼点を表にまとめました。
すべてを覚えるのではなく、どんな着眼点があるのかをザッと見てください。
(1)温度・気温
【特徴】
- 500hPaの等温線の集中帯は傾圧帯(下層の前線帯、上層の強風帯)に対応する
- 850hPaの等温線の集中帯は地上の前線に対応することが多い。また、風の場と合わせて温度移流を把握する
【頻出の着眼点】
- 気温が高い/低い
- 等温線が北に凸
- 暖気核が崩れる/ある
- 温度傾度・気温の水平傾度が大きい
- 高温域がある
【領域と着眼点】
(2)雲・雲域
【特徴】
- 気象衛星画像から低気圧・前線や、上層大気の流れ、積乱雲などに関する情報が得られる
【頻出の着眼点】
- 雲頂高度が低い
- 雲頂の高い雲・雲頂の高い雲域・雲頂高度の高い積乱雲が連なっている/並んでいる
【領域と着眼点】
(3)700hPaの鉛直流
【特徴】
- 傾圧不安定による温帯低気圧の発達を判定するのに用いられる
- 激しい現象が起こりやすい場所を判定する指標として利用される
【頻出の着眼点】
- 上昇流域・下降流域になっている
- 上昇流・上昇流域・下降流・下降流域が広がっている
【領域と着眼点】
(4)相当温位
【特徴】
- 前線帯では相当温位の傾度が大きいので前線解析に用いる
- 強雨域の予想には、風の予想値と合わせて高相当温位気塊の流入域を把握する
【頻出の着眼点】
- 相当温位が高い/低い
【領域と着眼点】
最後に
本記事では過去問題の頻出パターンを紹介しました。
これ以外の出題も予想されますので丸暗記をするのではなく、解答の作り方の参考にして、常に自分で答案を考える練習を積むと実力がついてきます。
頑張りましょう!
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はじめまして、「科学・学びブログ天紹介所」管理人トミと申します。
是非ブログを当サイトで紹介させていただきたく参りました。
文字のみでは難しいゆえ、詳細URLからご閲覧いただければと存じます。
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ご検討のほどよろしくお願いします。
トミさま
お誘いいただきありがとうございます。
ご紹介いただければと思いますので、よろしくお願いします。