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トラフと渦度の使い方

500hPa高度・渦度の解析・予報図では、トラフや正渦度に着目することで、低気圧の盛衰や動きに関する情報を読み取ることができます。

今回は、過去問の出題事例をもとに、トラフ、正渦度、正渦度域、正渦度移流域の利用方法をまとめます。

【注意】本記事の図5の出典は気象庁、それ以外は気象庁の天気図をもとに、当サイトが加工して作成したものです。

トラフの使い方

 

▼低気圧の盛衰判断

トラフと地上低気圧の相対的位置から、低気圧が「発達する」、「最盛期にある(閉塞している)」、「トラフと低気圧の関係はない」、の判断ができます。

 

低気圧の盛衰判断

  • 地上の低気圧に対応するトラフが低気圧の西側に位置すれば、低気圧は発達する
  • 地上低気圧の中心とトラフがほとんど同じ位置にある(気圧の谷の軸が西に鉛直している)場合は、低気圧は最盛期または衰弱期にある
  • 地上低気圧に対応するトラフが低気圧を追い越すと、このトラフは低気圧の発達への寄与はなくなる

通常、低気圧の盛衰判断は、下層の温度移流や鉛直流(上昇流、下降流)などと合わせて総合的に行います。

 

実例

図1は、初期時刻(2021年3月4日00UTC)から(1)12時間後、(2)24時間後、(3)36時間後のトラフと地上低気圧中心の位置を比べたものです。

図1 500hPa 12時間・24時間・36時間予想図

 

(1)12時間後(図1(1))

初期時刻から12時間後、東シナ海には中心気圧が1016hPaの低気圧があり、東に進んでいます。トラフは地上低気圧の西側にあり、低気圧は発達が予想されます。

(2)24時間後(図1(2))

しかし、この低気圧は進行が遅いようです。日本のはるか東にある高気圧が日本の南に勢力を残し、低気圧の進行を邪魔しているようです。

このため、24時間後にはトラフは地上低気圧の真上もしくは少し東側に位置する予想です。中心気圧が12時間前から変わらず1016hPaであることからしても、この低気圧は最盛期にあると思われます。

(3)36時間後(図1(3))

さらに36時間後になると、トラフは完全に地上低気圧を追い越して先行します。低気圧はこれ以上発達することはありません。これを裏付けるように、閉じた等圧線は解析されなくなります。

 

なお、トラフが低気圧を追い越しても、低気圧は別のトラフと結びつくことで発達を続けることがあります。

 

正渦度域(強風軸)の使い方

 

正渦度域そのものが問われることはあまりありませんが、強風軸を使った問題が出題されます。

正渦度域と負渦度域の境界が東西方向に接しているとき、そこは風速が周囲に比べて大きい強風軸になっています。これは「渦度0線」とも呼ばれ、ジェット軸に対応しています。

なお、渦度0線が等高線を何本も横切るケースは、ジェット軸に対応していません(図2)。

図2 ジェット軸に対応しない渦度0線の例

 

▼台風の進路予想

台風は低緯度では偏東風にのって西に進み、中緯度では偏西風に流されて東よりに移動するようになります。「台風は一般流にのって流れる」と表現することもあります。

 

強風軸と台風の進路

  • 台風は、太平洋高気圧の周りを吹く上空の風(貿易風、偏西風)に流されて吹く
  • 台風の中心と強風軸の位置が近づくと、台風は西よりの成分を持つ進路から、東よりの成分を持つ進路に変わる(転向)する

 

▼低気圧の閉塞判断

寒冷前線が温暖前線に追いつくと、暖気は上空に押し上げられて下層は寒気に覆われます。

一方、強風軸を挟んで低緯度側(南側)は気温が高く、高緯度側(北側)は気温の低い領域です。このため、寒冷前線が温暖前線に追いついたところ(閉塞点)を境にして、低気圧の中心は強風軸の北側に移行します。

 

低気圧の閉塞判断

  • 地上の低気圧の中心が500hPa面の強風軸の北側に入ると、低気圧は閉塞を始める

 

実例1

2017年10月の台風第21号の事例を見てみます。

図3(1)によると、台風の進路は20日に東よりの成分を持ち始め、21日から加速して22日に上陸、23日に海上で温帯低気圧になりました。

図3 強風軸と台風の進路

 

図3(2)を見ると、台風は22日には5700mの強風軸にのっていることが分かります。

 

実例2

出題:38-2-3(1)②

日本の南にある台風が今後、加速して北東に進むと予想される理由を、渦度に着目して答えさせる問題です。

図4 500hPa解析図

 

図4では台風は四国の南方海上にあり、強風軸(紫色の線)に接近しています。風の上流側では北緯36°付近に強風軸があり、今後、台風は強風軸で流されることが予想されます。

渦度の0線に対応する強風軸が、台風の西側で台風とほぼ同じ緯度まで南下するため」が模範解答でした。

 

実例3

出題:47-2-2(2)③

第47回の実技2では、500hPa高度・渦度24時間予想図を使って、低気圧が閉塞を開始する理由を問われました図5において、地上低気圧の中心は赤い×で記入してあります。

ジェットに対応する強風軸は、日本の東では5460m付近です。地上低気圧の中心は500hPa強風軸の北側にあるため、この時刻には閉塞を始めていると予想されます。

図5 500hPa 24時間予想図

 

模範解答は「地上の低気圧中心が500hPa 面の強風軸の北側に入る」です。

 

正渦度移流域の使い方

 

正渦度移流域とは、正渦度極大域が接近してくる領域のことです。

正渦度移流域では上昇流が強化されるため、低気圧が発達しやすくなります。

※正渦度移流域のイメージが分からない方はこちら。

(参考)上昇流が強まると、なぜ低気圧は発達する?

発達する低気圧は、吹き込んだ空気をどこかに吐き出す先を持っています。

地上低気圧で収束した空気が上昇して、かつ上層に発散があれば空気が循環し、低気圧というシステムが維持されます。

逆に、低気圧で収束した空気が上昇できなければ空気は溜まっていくだけなので、低気圧は消滅してしまいます。

「トラフを理解する(2)収束と発散」

 

▼低気圧の発達判断

地上低気圧が、トラフ前面の強い正渦度移流域に入ると、その低気圧は発達が予想されます。

 

正渦度移流域と低気圧の関係

    • 地上低気圧の上空が正渦度移流域になっていれば、地上低気圧とトラフの3次元的な対応が明瞭
    • 低気圧は、トラフ前面の正渦度移流域に入ると、発達が予想される

 

実例

出題:47-2-2(2)②

三陸沖の低気圧が発達する理由を、トラフと渦度に言及して答えさせる問題です。低気圧は赤い×印で示してあります(図6)。

図6 500hPa 12時間予想図

 

低気圧の後方にはトラフがあります。また、トラフと低気圧の間には+165の正渦度極大値があります。

混み合った等渦度線を横切って、風が吹いていくことが予想されます。すなわちここは強い正渦度移流域になっています。

低気圧はトラフの前面の強い正渦度移流域に入るため」が模範解答です。

注)試験では温度移流についても問われていますが、ここでは省略しました。

 

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「トラフと渦度の使い方」への2件のフィードバック

  1. トラフ追跡の実例で,「図2 500hPa 12時間・24時間予想図」とありますが,”24時間・48時間予想図”ではないでしょうか?
    そうなると,時間差は12時間ではなく24時間となり,24時間で12度移動ということになりますが,この理解でよろしいでしょうか?

    1. ご指摘の通り、図2は「24時間・48時間予想図」の表記が正しく、トラフの移動速度は50ktもないことになります。
      事例として相応しくないので、当該箇所を削除しました。
      記事内容には誤りのないよう、一層気を付けたいと思います。
      よく読んでいただいていることに感謝いたします。

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