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典型的な前線(上)

いろいろな前線の中から、比較的分かりやすいもの(注)を選んで、2回に分けて解説を試みたいと思います。

注)参考書では、よく「教科書的な事例」という表現が用いられています。いつも「変な言い方だな」と思いますが、要するに理想的なパターンということです。

毎日天気図を見ていると難しい前線もありますが、まずは模範的な事例で構造をしっかりと理解することが大切です。

今回(上)は850hPaの実況図を使って前線解析を行います。次回の(下)では850hPaの予想図を使って、12時間先の前線を考えてみたいと思います。

 

▼今回の事例

まず、今回取り上げる前線を紹介します。

図1は2020年4月4日9時の天気図です。日本海北部に低気圧があり、温暖前線は北海道に、寒冷前線は朝鮮半島にそれぞれのびています。

このような気圧配置では、温暖前線や低気圧に向かって暖かく湿った空気が吹くため、列島で気温が上昇します。

 

図1 地上天気図(2020年4月4日9時)

 

台湾から日本の南にのびている停滞前線は今回は取りあげませんが、この時期にはたびたび見られます。毎年2月末、ないしは3月になると南から暖気が北上してきて、華南方面から前線がちょっかいを出すようにのびてきます。

 

▼850等温線で引いた前線

図2は850hPa気温・風、700hPa上昇流解析図(AXFE578)を用いて、850hPaの等温線で解析した前線です。前線記号は省略してあります。

参照しやすいように、地上天気図(縮小)を左に並べてあります。

 

図2 850hPa気温・風、700hPa上昇流解析図、地上天気図

 

寒冷前線は、等温線集中帯の南縁に相当する0℃線を選び、朝鮮半島にある上昇流域の境界まで引きました。

寒冷前線の西側には35ktの北北西の風が吹いており寒気移流があり、その周辺に下降気流も確認できます。しかし、寒冷前線の後面には、組織的な下降流は見られません。

温暖前線は−3℃線に沿って、上昇流域の境界まで引きました。0℃線に沿わせる案もありますが、−3℃線の南に南分の15ktの風が吹いているので−3℃としました。

なお、低気圧の中心や高気圧の中心位置は、地上と850hPaでは一致するとは限りません。図2でも、低気圧性循環の中心は、地上低気圧の中心より少し北にあるようです。

気象予報士試験で850hPa面の前線解析をさせる場合、850hPaの低気圧性循環の中心を意識する必要はないと思われます。解答を見る限り、温暖前線と寒冷前線はそれぞれ、等温線(あるいは等相当温位線)の集中帯の南縁が交わるところから引き始めています。

 

▼気象衛星画像(可視)で前線の一致具合を確認する

図3は同時刻の可視画像に地上天気図を重ねたものです。前線の形状と雲域がよく一致しています。

寒冷前線に沿って、糸筋のような「ロープクラウド」が形成されています。ロープクラウドは寒冷前線の前方によく見られますが、温度傾度など上空の構造を有さないため寒冷前線として解析しません。

 

図3 可視画像に重ねた地上天気図

 

▼2種類の地上天気図

今回用いた天気図は「気象庁天気図」と呼ばれるもので、「SPAS(速報天気図)」の確定版です。

SPASは観測時刻からおおよそ1時間で入電するデータを解析したもので、約150分後に公表されます。その後に入電したデータを加味して再解析した結果、前線が変更されることがあります。これを修補(しゅうほ)と言います。

図4の(a)は修補後の天気図(今回利用)、(b)は修補前の速報天気図(SPAS)です。日本海の低気圧からのびる温暖前線が速報版では南東にのびていますが、修補後は東南東にのびるように修正されています。その他にも修補箇所が確認できます。

 

図4 地上天気図

 

修補後の天気図は「日々の天気」に掲載され、「気象庁天気図」としてCD-ROMで入手できます(有償)。

 

▼この事例を取り上げた理由

最後に、今回の事例を取り上げた理由を説明しておきたいと思います。それは解析のしやすさと、多様な解析データが入手できることです。

一般に、低緯度(南方)ほど温度傾度が小さくなるため、前線解析は難しくなります。また日本の東は海上のため、解析データが乏しくなります。こうしたことから、北緯30°以北で日本の西側にある前線を探しました。

また、高層天気図は一日に2回、00UTCと12UTCに作成されますが、冬季の00UTC(日本時間の朝9時)は太陽高度が低く、衛星の可視画像は色の濃淡が識別しにくく使いにくいものになります。

さらに、注目する低気圧の周辺に他の低気圧がないことなどを基準に探したのが今回の事例です。

 

次回は12時間予想図を使った前線解析を行います。

典型的な前線(下)

 

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「典型的な前線(上)」への2件のフィードバック

  1. 大変勉強になります。ありがとうございます。
    「温暖前線は−6℃線に沿って、上昇流域の境界まで引きました。」についてですが
    -3℃線のようにみえるのですが、いかがでしょうか?間違っていたらすみません。

    1. ご指摘の通り「−3℃線」が正しいので、修正いたしました。
      ご指摘をいただきありがとうございました。

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