発達する低気圧を読む

低気圧が発達するときは、500hPaのトラフが地上低気圧の西側にあることは多くの方が知っていると思います。「気圧の谷が西に傾く」という言い方もされます。

このほかにも、各層の天気図を使うと低気圧発達の兆候をあちこちに見つけることができます。天気図を読むとは、そのようなチェックポイントを一つひとつ追っていく作業です。

今回は前半で発達する低気圧のチェックポイントをおさらいします。後半では、チェックポイントの意味することをまとめてみたいと思います。

 

天気図のチェックポイント

低気圧が発達する時の条件を各層の天気図で見る際の着眼点を順に見ていきます。それらの位置が各天気図で対応していれば、低気圧(じょう乱)の発達を示す有力な手がかりになります。

チェックポイントの番号の後ろには見るべき天気図の名称を付しました。ここでは実況図を前提にしましたが、予想図でも見るポイントは概ね同じです。

なお、低気圧の発達状況などによっては全ての特徴が明瞭に見えるわけではありません。

【地上】

  • 等圧線の閉じた低気圧がある(ポイント①)<ASAS>
    GW(海上強風警報)またはSW(海上暴風警報)が発表されていることもあります。その場合、等圧線が混み合い気圧傾度が大きいことが分かります。
    発達する低気圧の後面の上層にはトラフがあります。高層天気図を見るときは、注目する地上低気圧の位置を書き写すと、じょう乱周辺の特徴を見つけやすくなります。

【300hPa】

  • ジェット気流(強風軸)が蛇行している(ポイント②)<AUPQ35>
    等高度線と等温線が平行でない「傾圧大気」では、その不均衡を解消するような現象が発生します。
    南北の気温差が原因で発生する寒帯前線ジェット(極前線ジェットとも言う)に着目します。

【500hPa】

  • 地上低気圧の西側にトラフがある(ポイント③)<AUPQ35>
    正渦度移流によりトラフ前面に発生する上昇流が低気圧の発達に寄与します。気圧の谷の軸が直立するとこの関係が成り立たなくなります。

【700hPa】

  • 低気圧の前面に湿り域がある(ポイント④)<AUPQ78>
    低気圧が発達するには湿りが必要です。ドットで表された湿数(T-Td)が3未満の領域を確認します。
  • 低気圧前面に上昇流、後面に下降流がある(ポイント⑤)<AXFE578>
    上昇流は水蒸気を含む暖気を運ぶシステムであり、低気圧の発達には不可欠です。

    低気圧後面には上昇流と対になる下降流があります。

【850hPa】

  • 温度傾度が大きい(ポイント⑥)<AUPQ78, AXFE578>
    温度傾度が大きいところでは性質の異なる気団が接しています。これは前線の存在を示唆します。
  • 低気圧前面の温度傾度が大きいところで暖気移流、後面で寒気移流が見られる(ポイント⑦)<AUPQ78, AXFE578>
    低気圧の発達には下層の暖気移流が欠かせません。
  • 低気圧性の循環が明瞭である(ポイント⑧)<AXFE578, FXJP>
    地上低気圧の位置とは多少ずれていたり、循環が確認できないこともあります。

天気図以外にも、衛星画像やレーダーエコーは気象現象を把握する重要な手段です。天気図では解析が難しい局所現象(メソスケールの現象)を見つけることもできます。

【衛星画像】

  • バルジ状、もしくはフック状の雲が見られる(エコーとの対応も見る)
    南から暖湿な空気が流入し、強風軸に沿って高気圧性曲率を増すことで、北側に膨らんだ(バルジ)雲が発生します。
  • トラフに伴う暗域が見られる
    トラフ北側の中上層は乾燥しているため、暗く写ります。

【レーダーエコー】

  • エコーの強いところを見つけて、その理由を考える
    黄色や赤色のエコーの部分は、上昇流の極大値と一致していることが多いです。暖湿気の継続的な流入、シアーラインの存在、地形性など、他の天気図や地形と照合してその理由を考えます。

衛星画像やレーダーエコーは現象の移動や停滞、広がりの推移を見ることも大切です。可能であれば動画(コマ送り)で時間変化を追いかけてください。

以上をまとめたものを図に示します。

 

 

チェックポイントの意味を考える

前半では低気圧が発達するときに天気図でチェックすべき要素を確認しました。後半は、なぜこれらのチェックポイントに着目するのかを考えてみます

温帯低気圧は地球の極側と赤道側の温度差を解消するためのメカニズムです。したがって、傾圧不安定を出発点とすると分かりやすいです。

【ポイント①】等圧線の閉じた低気圧

総観規模の低気圧を解析するために、等圧線の閉じた低気圧をみつけます。発達する低気圧では、中心気圧が前の観測時間より下がっています。

なお、メソスケールの現象を解析する際は、等圧線の閉じていない「低圧部」を解析することもあります。

【ポイント②】ジェット気流の蛇行

地球は球状をしているため、太陽による加熱の結果、赤道側は暖まりやすく、極側は暖まりにくいという不均衡が生じます(温度傾度)。

これを解消すべく、暖気を高緯度側に、寒気を低緯度側に輸送するために偏西風は蛇行することになります。これが傾圧不安定という現象です。

300hPaで吹いている風は、等高度線に平行な地衡風が基本です。ジェット解析の結果、強風軸が等高度線を大きく横切っていれば、それは非地衡風成分があることを意味します。そのような場所では、何らかの気象現象が発生している可能性があります。

【ポイント③】気圧の谷が西に傾いている

トラフでは曲率性による渦度が大きく、その前面は正渦度が移流してくる(渦度の値が大きくなる)領域です。

注)「正渦度域」と「正渦度移流域」は異なる概念です。「正渦度が移流する結果、正渦度域になる」という原因と結果の関係にあります。これについては別記事にまとめる予定です。

トラフには低気圧性の曲率が埋め込まれているので、気圧が下がる「気圧の谷」になります。気圧が下がるということは高度が下がることを意味します(層厚の式)。

これを大気中に想定した気柱で考えると、トラフでは気柱が短くなります。周囲に比べると気柱の空気の量が不足するので、他から空気が流入して不足分を補うことになります。このため、下層で収束と上昇流が生じます。

【ポイント④】低気圧前面の湿り

低気圧前面は、上昇流が運んでくる水蒸気や温暖前線を滑昇する暖気で湿っています。この湿り域は700、850hPaの実況図で確認します。中下層の雲域ともよく一致するので、気象衛星画像とも照合します。

【ポイント⑤】低気圧前面の上昇流

水蒸気を含む気塊を中上層に運ぶのが上昇流です。上層にいくほど気圧が下がり気温も下がるので、水蒸気は潜熱を放出しながら凝結します。これが雲粒になって降水をもたらします。

【ポイント⑥】温度傾度

北側の寒気と南側の暖気の境に発生して傾圧不安定を解消するのが温帯低気圧です。その境目では気圧、密度、温度といった性質の異なる空気が接しています。

天気図の等温線の集中帯の大きいところの最も南側を前線として解析します。

温暖前線を滑昇した暖気は凝結してもたらす降水域は、レーダーエコーで確認することができます。

【ポイント⑦】暖気移流

温度の高い方から低い方に風が吹いてくることを暖気移流といいます。風が強いほど、等温線を切る角度が直角に近いほど、また温度の集中度が大きいほど、「強い」暖気移流になります。

暖気移流は上昇流を生じるためには欠かせません。日本は海に囲まれているので、南よりの風が暖湿気を運んできます。湿った空気が上昇すると水蒸気が凝結することは先に述べたとおりです。

日本付近に複数の低気圧が発生した場合、暖気移流(と寒気移流)の強さを見ることで、どの低気圧が発達するかを判断することができます。

 

最後に

医師が病気の部位を見つける手段の一つとして画像診断があります。素人目には何の異常もないCTやMRIの画像を診て、医師は病変を見つけ出します。

しかし、画像だけを見ていたのでは見逃しが生じるそうです。画像診断の前に行う他の診断で「ここに異常がありそうだ」というあたりをつけておいてから画像を見ることで、見逃しのない読影が可能になるそうです。

気象も同じです。300hPa天気図でジェット気流を解析することで、衛星画像のバウンダリーに目が向きます。500hPaのトラフが深まっていることで地上の低気圧が発達するだろうという目で他の天気図を見ると、湿りや上昇流の存在にも気がつきます。

手順を機械的に行うのではなく、「ここにこの現象があるということは、あそこはああなっているはずだ」ということをその都度思い起こしながら行うと、応用が効くようになると思います。

日々のトレーニングを積むことで、こうした気象の直感力を養いましょう!

 

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