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合格後のスキルアップ法を考えてみた

更新日:2022年2月5日

合格されたみなさま、おめでとうございます。これまでの学習が報われ、充足感を噛み締めていることでしょう。しかし、実は合格してからの方が大変なのです。

受験勉強では与えられたプロセスに従って解析すれば良かったのですが、これからは自分で必要な情報を集めて、自ら着目点を見つけて予報していかなければなりません。

自信を持って予報できるようになるためには日々の研鑽が欠かせません(私自身、研鑽を始めたところです)。「私は気象予報士です」と胸を張って言えるようになるために、やれることを自身への戒めを込めてまとめてみたいと思います。

次の順に書いていきます。

  • 毎日、気象解析をする
  • 講習を受講する
  • 理論を学ぶ
  • 気象予報士会に入会する(入会していないので推測)
  • 気象予報会社に就職する(入社していないので推測)
  • その他

気象解析を毎日行う

天気図を見て、毎日気象解析を行うことは全ての基本です。これをやらずして、予報ができるようにはなりません。
外出して天気図が見れないなどの理由がない限り、天気図の解析を行うことを原則、日課としましょう。

さらに言えば、解析の過程と結論を紙に書いていくことが大切です。天気図を見て、何となく「前線を伴う低気圧が日本海を北東進するから、日本海側は雨になるな」と思うだけではいけません。

(ワープロ利用でも良いですが)紙に書くことで、思考を可視化することができます。不明瞭だったことも書き残しておけば後日再検討できますし、「短期予報解説資料」(気象庁資料)と比較検討して表現方法や着眼点を改めることもできます。

毎日行うことの意味は、①気象の変化を日々追跡することで「背景の場」を押さえること、②引き出しを増やすこと、③習慣化することで解析に慣れることです。

①「背景の場」を押さえる

天気は連続的に変化する現象ですが、私たちが利用できる天気図はある時刻のスナップショットでしかありません。「背景の場」として実況に至るまでにどのような推移をたどってきたかを把握しておけば、これから先を予想する際の手助けになります。

背景の場というのは、「大きなスケールで見る」ということです。地上で顕著現象が発生しているからと言ってそこだけを見るのではなく、ジェット気流を特定し、渦度移流を見てそれに対応する湿り域や上昇流域などを関連づけて見ておきます。

そのためには、天気図を300hPa、500hPa、700hPa、850hPaというように、上層、中層、下層の順に追って状況を把握します。上層ほど変化はゆっくりですが、顕著現象と言えども背景の場の中で起きています。こうした大きな視点から追いかけていくことが大切です。この順で解析することに慣れてくると、地上天気図を見なくても主な気圧系の動きは推測できるようになってきます。

また、実況に至る気象の変化を押さえておくことも大切です。例えば、気温は大きなトレンドとしては季節の変化に沿った動きをします。これは日々の気温で追うこともできますし、500hPaの高度が平年よりも高い日が続いていれば、気温が高くなることが予測されます。

もちろん日々の細かな変動はあり得ますが、大きな流れを押さえるということは次項にも繋がる基本的な姿勢だと思います。

気象庁のホームページには色々な平均図が掲載されているので、これを利用すれば半旬や旬の単位で傾向を見ることができます。しかし天気図の解析を毎日行っていれば、背景の場は自然と頭に蓄積されて行きます。

②事例の引き出しを増やす

気象解析を行う上では、様々な気象現象の引き出しを増やしておくことが大切です。天気図を見たときに、「あれ?あの時の天気図に似ているな」と閃けば予測の幅も広がります。過去の類似事例と比較したり、違いを検討することで解釈を深めることにもつながります。

たくさんの事例から似たようなものを引っ張り出してくるのはAIの得意分野ですが、人間の感覚はそれを超えたものがあると思います。脱線しますが、昔流行った曲を聞くとその当時の思い出や匂いまで思い出すことってないでしょうか。

稀にしか発生しないような現象を覚えておくことはもちろん大切です。私の教わった講師は天気図を見ただけで、「これは昭和××年の△△豪雨と状況が似ているので、注意が必要ですね」ということを瞬時に解説されていました。

しかし入門レベルの者にとっては、毎年のように繰り返される季節性の現象や気圧配置を叩き込むことが出発点でしょう。

例えば、例年3〜4月には、華中から東シナ海にかけての5,700m〜5,760m付近で正渦度帯が伸びてきて、これに沿って停滞前線が顕在化します。これを知らないと、日本の南海上でなぜ停滞前線ができるのか、なかなか分からないでしょう。

(2020年3月22日の左は500hPa天気図、右は同時刻の地上天気図)

また、これと言って何も捉えどころのない日の特徴を普段からしっかり見て頭に入れておくことも大切にしたいところです。一年のうちのほとんどの日は現象的には安定した日が多いのですから。

【参考】

気象庁は異常気象が発生すると、随時「異常気象分析検討会」を開催しその報告書を公開しています。例えば、令和元年に東日本に大災害をもたらした「令和元年東日本台風(台風第19号)」については、「令和元年台風第 19 号に伴う大雨の要因について(令元12.23)」が公開されています。
http://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/yohokaisetu/T1919/mechanism.pdf

また、昭和20年以降に災害をもたらした気象事例の概要は、「災害をもたらした気象事例」としてまとめられています。
http://www.data.jma.go.jp/obd/stats/data/bosai/report/index_1945.html

③数をこなして解析に慣れる

何と言っても数をこなすことで解析に慣れること、これが一番大事な気がします。これによって勘が冴えるようになるはずです。

気象解析には48時間先までの短期予報と192時間先までの週間予報があります。恥ずかしながら私が解析するのに要する時間を告白しますと、短期予報が40〜60分、週間予報が15〜20分です。早朝に起きて、前日の12UTC(日本時間21時)の天気図をベースに作業しますが、毎日継続するのはなかなか大変です。

気象庁では俗に、「天気図を2千枚作って一人前」とか「予報官になるには20年かかる」と言われていたそうです。アマチュア予報士としてはそのレベルに少しでも近づけるよう、とにかく継続するしかなさそうです。

講習会に参加する

予報士試験の合格レベルと日常的な気象解析に必要なレベルにはギャップがあります。これはどのような資格試験でも同じことです。

このギャップを埋めるのには、気象予報士レベルの実力を前提とした講習を受講するのがお勧めです。ここでは、(財)気象業務支援センターとTeamSABOTENが開催する講習を紹介します。

①気象業務支援センター

気象業務支援センターは気象予報士試験の実施団体ですので、お馴染みの方も多いでしょう。同センターの業務の一つに「気象情報に関する知識の普及、啓蒙」があり、有意義な講習を廉価に提供してくれています。

講習には気象解析全般を扱う通年の講習と、新予報技術を扱う一回限りの講習があります。

通年講習(実践予報技術講習会)は合計18回開催されます。講師は気象庁OBです。年により開催方法は異なりますが、ここ数年は隔週の金曜日の夜間に開催されていました。毎回出席するのが大変な方には、過去講習をD V Dに収録したものが販売されています。

新予報技術講習会は「数値予報」、「予報技術」、「季節予報」別に年に1回開催され、本庁の現役係官が担当します。内容は気象庁内の講習にも使われるもので、その資料は気象庁HPにも掲載されています。

http://www.jma.go.jp/jma/kishou/books/index.html (ページ下の「予報技術研修テキスト等」から入る)

お勧めなのは通年講習です。タイムリーな事象も扱いますし、質問も自由なので、これまでの学習でずっと疑問に思っていたことをこの場で解決することができます。また、気象庁業務のこぼれ話なんかも聞くことができます。また、しっかりとした資料が配布されるので、後でじっくりと復習することもできます。

私が受講したときは、本庁の予報課長を務められたM講師にお世話になりました。どんな変化球の質問にも、直球で即答が返ってきました。研究心の強さ、過去の事例の豊富さ、お人柄。いずれを取ってもプロのすごさを実感しました。

②Team SABOTEN

パワフルなSさんを中心に、「パワーアップ講座」、「予報会議」を開催しています。「パワーアップ講座」は講義主体、「予報会議」は演習形式です。

こちらも気象庁O Bや現役の気象予報士が参加しています。気象業務支援センターの講習と比べるとくだけた雰囲気です。てんころの空気(「気象専門STREAM」を観ると分かります)が合う方には楽しいでしょう。2ヶ月に1回程度の開催です。

「パワーアップ講座」はじっくりと力をつけたい人向けです。それに対して、「予報会議」は前日から当日の天気図を使って解析を行うので、ある程度解析に慣れていないと戸惑います。

週末開催で会場は横浜駅周辺ですので、週末しか参加できない人や、神奈川県在住の人には便利です。

 

①、②のいずれの講習会に参加するにしても、先に述べた「気象解析を毎日行う」は欠かせません。

理論を学ぶ

ここで言う「理論」とは気象予報士試験の学科の「一般知識」のことではなく、気象に関連する物理法則を数式で表現したものを想定しています。

天気図解析というと今でも職人芸的な匂いがします。手慣れた人の解析作業を見ると、「神業か?」と思えたりします。気象情報が限定されていた時代には、想像力も働かせながら天気図を描いたり、予測をしていたことでしょう。

では、理論の学習は本当に必要なのでしょうか?

私たちが目にする天気図の多くは、観測値をもとにスーパーコンピュータで数値計算させた結果を図式化したものです。このようにして作成された天気図は、その制作プロセスによる限界を知って利用する必要があります。例えば、地形的な要素の細かいものは計算では考慮されないものもあります。

気象予報士制度の創設時に数多くの著作を著した二宮洸三氏は、その著作で次のように書いています。

「多分一部の業務経験者などから『物理学を使わなくとも、天気図、気象衛星の雲画像や気象庁の作成した数値予報資料を見れば天気予報はできるのではないか?』と反論や反発があると思われる。
しかし、この反論は正しくない。なぜなら、上記した基礎資料はすべて、一定の仮定のもとで物理法則を用いて得られたものである。その内容、原理を知らなければ適用限界を誤る。また、それらの資料をもとに大気状態の変化を考えるときには物理的な思考が不可欠だからである。」
「気象予報の物理学」(オーム社、平成10年)(一部改変)

では、理論を学んでみたいと思ったとき、どのように取り組んだら良いのでしょうか。私が思うに、少なくとも次の3点を意識する必要があります。

①目標を設定する
理論を学ぶと言っても、その内容はほとんどが数式の展開に終始します。テキストをスラスラと読んで完全に理解できる人はごく少数でしょう。普通は、自らペンを持って数式展開を追いかけるという地道な作業をしなければなりません。これをやっていると気象現象を理解することから遠ざかり、数式展開が目的になってしまいかねません。

そうならないためには、何を理解したいのか自分なりの目標を設定して、そこからブレないことです。

ちなみに、私の目標は「トラフを理解したい」ことです。トラフの構造はどうなっているのか、トラフが接近するとなぜ天候が崩れやすいのか、逆にトラフが接近しても天気が崩れないのはどのようなケースなのか。現象としては理解できていても、その理屈を知りたということが動機になっています。

②良い教材を選ぶ
気象の理論を学ぶためには、良いテキストを選ぶことが大切です。

そもそも気象の理論書の数は多くありません。色々と手にとってみましたが、個人的には次が良いと思います。


「気象がわかる数と式」(二宮洸三、オーム社、平成12年)

同じ著者による類似書として、「気象予報の物理学」(オーム社、絶版)、「気象がわかる数式入門」(オーム社、入手可)があります。この2冊と比べると、本書は数式の展開方法や数式の意味合いの解説が簡潔ですが付してあるのが長所です。

20年ほど前の本なので現在では絶版ですが、私はアマゾンで古本を入手しました(コンディションはとても良かったです)。図書館に置いてあるところもあります。

一冊の専門書を読み通すことはとても労力のいる作業ですが、鉄則は次の2点に尽きます。

1. 学ぶべき内容を全て網羅した一冊のテキストを選ぶ
2. 自分が決めた一冊を反復・継続して読み続ける

1回目の学習で分からないことだらけでも、とりあえず最後まで読み通すことが大事です。2回目、3回目と繰り返すごとに理解が深まります。

専門書は、初めて読むときが最もハードルが高いといつも感じます。

数式の展開がまったく分からなくて、挫けそうになります。それでもペンを持って、数式を追ってみます。数式の意味が分からなくても、何回も書き写していることで、数式の形状に慣れてきます。
これで2回目を読むときにはかなり楽になります。少なくとも3回は読むことで理解が深まるでしょう。

③道具としての数学を習得する
気象理論は数学という言語を用いて表現されています。これを使うことができないと理解できません。

あくまで言語としての数学を学べば良くて、定理などの証明ができる必要はありません。気象の学習と同時進行で数学も学んでいけば良いのです。

しかし、式を展開するときになぜそうなるのか、数学のどの分野を用いれば良いのかが分からないので、勉強のしようがないときが多々あります。

例えば先に挙げた「気象がわかる数と式」の第1章を読むだけでも、全微分、偏微分、ベクトルの内積と外積、積の微分公式、三角関数などが分かっていないとどうしようもありません。

このハードルをどう乗り越えたらば良いのか、今のところ妙案がありません。副読本でもあれば欲しいところですが、色々と調べながら進むしかないというのが現状です。

 

最後に。「①目標を設定する」でも書いたように、数式ばかり追っかけていると何をやっているのか分からなくなりがちです。

そんなときには、気象予報士の一般知識の参考書を取り出して読んでみると、あら不思議!以前よりもすんなりと読めるようになっているはずです。

大気の運動については、「気象変動がわかる気象学」(住明正、NTT出版、2008年)を読んでみるのも手です。縦書きの本ですが、数式の意味を日本語で解説してくれています。2020年現在、大型書店では在庫があります。

気象予報士会に入会する

どんな資格でも取得した時点ではまだヒヨコです。気象予報士も同じです。1発で合格しようが、10回受験して合格しようが、これからの精進次第で大きな差が生じます。

今後の進路としてはアマチュア予報士として生きていくのか、あるいは気象で生計を立てるのかという考えがあります。

アマチュアの場合、情報源やさらなるスキルアップの場として気象予報士会に入会するというのも案としてあります。全国8つの地域ブロックでの活動や講習会などが頻繁に開催されています。また天気図の添削や各種施設の見学会なども企画されています。

一方で、気象予報士会は加入率の低さも指摘されています。気象分野では気象学の研究を行う日本気象学会がありますが、こちらも会員数の減少が続いています。気象現象が激甚化している昨今、気象の理解を深めることは大切なはずですが、この傾向はなぜなのでしょうか。かくいう私も加入していません。

気象予報会社に就職する

気象で生計を立てるという考えもあります。最近はテレビに出てくる気象予報士が「最近、資格を取得しました!」という人がいて驚きます。確かにテレビの気象は新人アナウンサーが伝えるという時代もありました。今でも気象を「予報」するのではなく、気象を「伝える」だけなのでしょう。

私の社会人経験からすると、気象予報に関する仕事を覚えるのであれば小さい会社に入るのが良いでしょう。小さい会社では業務量が集中して大変でしょうが、予報業務に関連するすべての業務を一人称で行わざるを得ないので、結果として得られることが多いはずです。大きな会社では企業の一部分しかのぞくことはできません。

 

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